第18話 作戦
誰が殺したか。
それは既にわかっている。
しかし――。
「……それは今から伝える。だが、他に漏れるとまずい」
「それって……」
「情報が漏れると不味い範囲……つまり犯人は直ぐ近くにいる。そう言う事だね」
「そうだ。この部屋で今起きた事は全て他言無用で頼む」
全員が心得た様子で首肯する。
「それと犯人である証拠を掴むために、宝木にはある事を頼みたい。お願いできるか?」
「うん、わかった」
その時、ハイメが改まった様子で久頭に語りかけた。
「クズ君……君は、本当に何もかもがわかっているんだね?」
それに対して久頭は努めて静かに答える。
「ええ。わかっています。犯人も……真実も」
「そうか……」
目を伏せたハイメは何かを言いかけて、しかしそれを飲み込んだかのようだった。
「……いや、何でもない。それで君はどうするんだい?」
その質問への久頭の答えは、明瞭で、しかしハイメを驚かせる内容だった。
「犯人を罠にかけます」
「……なに?」
「その必要があります。この犯人は危険だ」
「どうやるのか、考えがあるのか?」
「作戦はあります。そのためには、ハイメさん達にもご協力して頂く必要がある」
「勝算は?」
「十分に」
ハイメの鋭い眼光を受けても、久頭は微塵もたじろがない。
彼は一切の誇張なくただありのままに述べている、そんな様子だ。
「……本気のようだな。わかった、話を聞こう。決行は?」
「今夜です。今夜、犯人を罠にかける。それまでに準備を急ぎます」
一度言葉を切り、久頭は一杉達のいる方を見る。
「優人、それに……元世。作戦には二人の力も必要だ。協力してほしい」
「僕にできる事なら何でも」
「う、うん。わかった」
一方はにこやかに、一方は半ば勢いでうなずく二人。
同意を確認すると、久頭は作戦の説明を開始した。
「ありがとう。ではハイメさん、作戦内容を説明します。まず――」
♢
説明を終えると、各々が準備に動き始める。
久頭も早速移動しようとしていた。
(まずは研究所だな。所長にいくつか頼みたいこともあるし……)
久頭が考えながら歩き始めたところを、宝木が呼び止める。
「待って、久頭くん」
「ああ、宝木もこっちを手伝ってくれるか? 運ぶものもあるし……」
「うん、手伝うよ。いや、そうじゃなくって」
反射的に笑顔でこ快い返事をしてから、会話の軌道を修正する。
宝木は真剣な、相手を心底心配する表情をしながら言う。
「さっき話してくれた作戦……久頭くんの危険が大きすぎるよ」
「……」
久頭は思わず口をつぐむ。実際、そこがこの作戦の一番の泣き所だ。
しかし、既に決めた事だ。リスクはあるが、それ以上のリターンも見込める。
いや、それ以上に……確かめる必要がある。
だから、作戦を変えるつもりは無い。
なるべく明るい調子で久頭は答える。
「大丈夫だ。打てるだけの手は打つし、保険もある。最悪のケースでも犯人が逃げ切れる可能性は低いし……」
「そうじゃなくって!」
宝木が大きな声で遮る。
「犯人が逃げるかもとか、そう言うことじゃなくて……久頭くんが怪我したり、もしかしたら」
やっぱりだ、と久頭は思う。彼女はこういう時、泣きそうな顔をする。
「死んじゃうかもしれないんだよ!?」
彼女が何を言いたいのか、久頭にはわかっている。
しかし、彼女は何故ここまで真剣に他人を心配できるのだろうか?
それは、今の久頭には理解できない感情だ。
いや、それ以前に……今の久頭で無ければ、元の世界にいた頃の久頭であれば、そんな彼女の感情を気にもしなかっただろう。
まだ、彼にはわからない。それでも彼女がそういう人間である事がわかり、そんな彼女のあり方に疑問を覚えるようになった。それ自体が今までにない大きな変化だった。
だからその時も。
彼は、今までの彼なら考えないような事を……初めて考えた。
「宝木は……俺が死んだら悲しむのか?」
「当たり前だよ! だって、久頭くんは大事なクラスメイトで、私の命の恩人で、それで……!」
「宝木が悲しむなら――」
俺はクズだ。
俺はロクでなしだ。
俺は嘘つきだ。
それでも。
「――俺は死なないよ」
この言葉は嘘にしない。
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