第43話 霊トリック 2
記憶に反応する闇照大神。
轟音を吐き出す、闇の声。
闇は電球が消えるかの様な点滅を繰り返す。
点滅の間隔は徐々に緩やかになる。
中で何が起こっているのか解らない。
皆が注視する中、繭から糸が突き出す。
赤い糸。
それを引っ張る。英助が一番先に掴む。続いてビー玉、チイコにダヴィ。
今城さんの指示の元、応戦する者と糸を引く者。班を素早く分けた。
闇の繭から浮かび上がる糸を握る拳の形。
少女の腕、誰もがさくやの腕だと直感。
業太は跳ね上がり、光の宝剣『黒切(くろきり)』を振り下ろす。分別剣、斬るものの取捨選択が出来る剣は見事に闇の繭だけを切り裂き、さくやを外へ摘出する。
摘出されたさくやを一番最初に抱きしめたのはビー玉だった。即座に桜尋様の元に連れていく。続けて護衛に英助、チイコ、ダヴィら四人は走る。
必死に。
離さない。
さくやをもう手放す事は無い。
闇の繭は核であるさくやを取り戻す為に、闇の異形を生む、それは数を増した。
闇の繭が完成するには、まださくやを喰らい尽くさねばならないのだろう。
それを桜尋軍、総掛かりで食い止める。
全ての攻撃が通じない。手応えが無い。
刀も
槍も
弓も
拳も
雷撃も
閃光系の術でも歩を留めるので精一杯だった。
唯一、闇の異形に抵抗出来ているのは光の宝剣『黒切』を持つ業太だけだった。
闇の繭は異形を波の様に産みながらも更に膨れ上がる。
「あれが膨れ上がり続けるとどうなるんですか?」
「ああ、果てしなく闇を吸収し続けて世界中が闇に埋まる。世界が滅びるよ」
「じゃどうするんですか?」
「お前は解ってないな、いつでも世界が滅びない様に頑張ってるのが『神様』だ」
「だったら神様何とかして下さいよ」
「困った時ばっか神に頼りやがって…ところでさ段、お前が神の力を得たらどうなると思う?」
僕の肩に手を置く。
「何をするんですか?」
「お前に神様貸してやるよ」
桜尋様は『神懸り』自らの霊性を生身の人間である僕に送り続けた。四つ眼が全て閉じられる。
「いいか?お前は今から神になる。もう一つの異能の覚醒さ」
身体が光る。全てが光る。金剛肢?
違う、これは新しい光。新鮮な生まれたばかりの光。
闇の異形は逃げ惑うがゆっくりと消失していく。
夜の概念は光に主導権を譲り、光は去る時に闇に夜を託す。
朝日を迎える様に高らかに腕を振り上げろ。
どんな時でも朝は来ないといけない。
朝の笹林を照す黄金の光。
厚い雨雲から漏れる一隅を照す光。
生まれたばかりの赤ん坊が初めて瞳に映す光。
闇からの始まりの光。
新しい朝が来る。
光の異能と神の力が混じる。
「構えろ、そしてお前の腕で朝を呼べ」
それは、とても巨大な光の刃。それは集まり光彩を生む。大きな光の刀を握りしめる。
そう、これくらい大きく無いと世界を照す事は出来ない。
ゆっくりと、腕を振り下ろす。
朝は優しく訪れる。
地球の歩みに合わせて
当たり前の様に悠々と訪れる。
夜が消える。
あれ程暗かったのはもう忘れるくらい。
もう明るい。
派手さも轟音も無く、断末魔の叫びを上げることも無く。
さくやは治療を受けて回復している。
堤防の下。水溜りの残るコンクリート。
海風で流れる黒い髪を押さえる手。
白い肌には目立つ、頬と耳の赤み。
それは少女がこれから泣き出すサインなのかもしれない。
「絶対に助けてくれると信じてた」
「うん、僕の役割だからね。でも皆の力がないと無理だった」
「ありがとう」
「うん、無事で良かった」
「怖かった」
「うん、大変だったね」
さくやは泣き出す。当然の様に段に抱きついている。
「みんな観ているから」と言いたい段は、それを押さえた。さくやの髪が海風になびいて頬に当たる。腕が…力が強い。
苦しいけど、悪くない。
胸の感触が…とかいう変な気持ちが湧き上がらないのは不思議だった。
なぜかわからない、だけど分析はしない。
泣いているさくや…。
魔女と呼ばれていた彼女。
魔王の素質のある彼女。
今は三島段の胸の中で泣く、水織さくや。
よく泣く、ただの女の子。
魔王から助けられた、姫様。
不思議な事だらけだ。
どれが本当の『水織さくや』なんだろう。
彼女の事をもっともっと知りたいと、段が本腰を入れる迄はあと少し時間が必要なのかもしれない。
「それにしても、さくやってよく泣くんだね」
泣き欲求が少し収まって、やっぱりいつもの憎まれ口。
「泣いてる?涙?違うわ。これは…アレルギーじゃ無いかしら」
「そう大変だね、でもアレルギーなら抱きつかなくても良くない?」
「何にも知らないのね。好きだったら抱きついていいの!」
「答えになってないよ」と言っても仕方ない。
「そういえば、段って私の匂い好きだったよね。ドキドキした?」
「…何を言ってるの?」
「顔が赤い、あなたでもそんな顔するのね」
「嬉しいわ、とっても」
さくやは声を出さず口だけでその感情をあらわした。
綺麗な瞳はまた、眼を潤ませて涙を蓄える。
何を言っても言い訳にしかならないのかもしれない。
魔女の術中に僕は…。
…落ち着こう。思い出せ、こんな事をしていたいけど、している場合じゃ無い。
そろそろ、学校に行く準備はしたい。親に、先生に怒られる。
どう切り出そうかと悩み始める三島段。
学校はゆっくり遅刻していくつもりの水織さくや。
まだまだ、二人は離れない。
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