第36話 生贄

 俺は機嫌良く家に帰る。

 今日も大漁だ、パチンコで懐が暖かい。

 霊を手下にしてしまえば釘を弄る事なんてのは容易い。

 お陰で簡単な金儲けが出来る。

 適当に勝って、適当に負ける。

 それの繰り返し。

 勝ちすぎて店に目をつけられて出禁になってもつまらない。

 事務所に連れて行かれるのも今の身の上だとマズイ。

 なのでとりあえずチマチマしているが、今はこれで小遣い稼ぎ。

 ヒカリがテニス部の合宿に行っている間はこれで憂さ晴らしをしている。

 確か今日の夜に帰ってくると聞いている。

 三島も忙しそうで放課後になるとすぐに帰っていく。期末テスト前だからか、俺も少しは控えるか?

 学校で大人しくするのには慣れた。

 代わりに異能(おもちゃ)が二つある。

 派手な動きは化け物や霊達が仕掛けて来た時だけで、俺に叶う化け物はもうこの鱈聞(たらぎ)町にはいない。

 堂々として、オッサンが着そうなベストにチノパン。ダサイ二千円くらいのスニーカーを履いてマスクをすれば高校生には見えない。

 制服は化け物共に持たせている。

 下校したらすぐに仕事パチンコに行く。

 便利に化け物を使っている。

 暴れられたら困るだろう?俺に。

 

 家の前で数名の化け物に囲まれる。

 

「へっ俺を誰だかわからねぇ化け物がまだいたか、報復か?」

 

「金原剛は君だろうか?」

 

 巨体の槍を持つ覆面の男が話しかける。

 

「誰だ前は?」

 

「金原剛で間違い無いようだ」

 

「だったら何?名前言えカス」

 

「むん、こちらとしては名乗りの準備をする予定だったが、礼法を弁えぬ輩には名乗れぬな」

 

「はぁ?化け物の分際でよ勝手に見下してんじゃねぇよ」

 

「我々に同行して欲しい。魂消祭が始まる」

 

「あの、俺を生贄にするってアレか、関係ねぇだろ俺に許可も取らねぇで」

 

「例年、生贄には許可を取らない慣しでな、しかし生き残れば褒美が出る。異能を二つ持っていれば容易かろう、力量を試してみてはいかがかな?」

 

 俺は痺れを切らした、こんな奴の口車に乗るほどお気楽に生きていない。

 金剛肢こんごうし。身体中が光る。

 

「大人しく我々に従うつもりはない。そういう事だな?」

 

「だったらどうなんだ?」

 

「痛い思いをしてもらう」

 

 腹に光が突き刺さる。

 金剛肢の光が弾き飛ぶ。

 こんな痛みは味わった事がねぇ。

 内臓が破裂している?

 

「練りが甘い、私の槍を使うまでもない」

 

 周りの化け物が俺に群がり縛り上げる。

 

「何を…やった!」

 

「拳を腹に当てただけだ。手加減してある、命に別状はない。お前も周りの霊達に聴かされているだろう?魂消祭の予選が始まる。君は生贄だ」

 

「くそ…そんなモン俺には関係ねぇだろう!」腹に打たれた光は消えず、痛みは鈍く残る。腹に何かを埋め込まれた様な感覚に声が割れる。

 

「そうだな、君の都合も我々には関係無い」

 

 俺は手際良く縛られていく。

 金剛肢も火生も発動出来ない。

 くそ…なんだこの雑魚っぽい扱いはよ!

 手も足も出ないで拉致られた。

 

「よし、彼の内臓の治癒だ。祭場に着くまでに間に合わせてくれ」

 

「ふざけるな、内臓までやっといて簡単に治る訳ねぇだろうが!」

 

 俺の周りでに化け物が集まり、手当てをしている。奇妙な液体を腹にかけると、すぐに痛みが引き始める。

 

「くれぐれも死ぬな。君はきっと地獄に堕ちる」

 

 巨体の槍男は静かに言った。

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