第32話 準備

 昨日は泣いてしまった。

 三島君に抱きついてしまった。

 雷静さんにも黒国君。

 チイコにも見られてしまった。


「水織さんは、まだ世話役になったばかりです動揺するのは仕方ない事です」


「我々もサポートしますから、ご心配なさらずに、むしろあの人数に襲われて逃げ切れたのですから大したものです」


 チイコも雷静さんもフォローしてくれているけど三島君から離れるタイミングを見失っていた。

 さすが、僧侶…目の前で人が泣いている場面には慣れている。

 雷静さんは、さっきから、優しく声をかけ続けてくれる。

 ムクれ顔を隠しつつ私は三島君から離れた。


「ここは一緒にカレーでも食べに行きませんか?」


 みんなでカレーを食べに行った。

 美味しかった。

 上機嫌な時に食べたらもっと美味したったかもしれない。

 だけど、食べ物で機嫌が良くなるというのは子供っぽくて恥ずかしい。

 私は、ほとぼりが冷めるまで大人しくしようと黙ってた。

 チイコは復活が早くて普段どおり元気になって雷静さんにカレーを分けて貰ってた。

 チイコは黒国君のバイクに乗って帰るそうだ。

 表情が沈んだ私を見て、帰り際に黒国君がバイクに跨って言った。

 

「段お前、水織が喜ぶモン持ってるだろう出せよ」


「業太…お前」


「明後日、日曜だから水織と行ってこい」

「なに?」


 三島君は財布から映画のチケットを二枚出した。


「ヒマだったら行く?」


 こうして私は日曜日、三島君とデートすることになった。

 

 朝、ビー玉が通学鞄を持ってきてくれる。

 昨日の事件の現場検証にビー玉は参加していた。

 ついさっき、私達が襲われた森の現場検証が終わったそうだ。

 私を襲った敵の正体は調査中。

 七夜河の霊や妖怪では無い事は間違い無い。

 敵の司令官の左腕を検分したところ江戸時代の霊の物だという事がわかった。

 手懸りはこれだけだけど、もし近日開催される魂消祭の予選の相手の誰かが左腕の無い相手だったら犯人はその人物だということになる。

 桜尋様は相手方の笠取姫と近々、面談の予定らしい。

 学校に行く準備をする。

 鞄の中の教科書を入れ替えようと鞄を開けると惚れ薬とハンドクリームが入っていた。

 チイコから貰った惚れ薬。

 効果は六時間、連続使用は厳禁。

 人間に使用する際は100倍に希釈して用量を守ってご使用下さい。

 副作用、頭痛、吐き気、精神錯乱、悪夢、失神。

 これ、好きな人に使う人いるの?

 ビー玉が効能書を観てる。


「んーでも…段は毒耐性持ってるから、普通の用量じゃ効かないと思うよ」


「いえ、これ私は使わない方向で考えてるんだけど」


「私に任せて、扇市で万全に加工してくるから」


 ビー玉と家を出て途中で別れる。

 今日は雨が降っている。

 明日は降らなければいいのだけど。

 

 コンビニの前でミコトが元気に手を振っている。

 朝から縁起が良い。

 幸運を貰えそう、明日は決戦。

 ボディタッチは多めに。

 うん、ミコトはご利益がある。

 

 今日は土曜日。

 午前中で学校は終わり午後からは長崎市内に行って明日の為に服を買う!

 

 三島君と違うクラスで良かった。

 彼の前でどんな顔をしていいのか…わからない。

 出来るだけ三島君と鉢合わせしない様に教室を出ないでやり過ごした。

 放課後にバスに乗って市内に向かう。

 七夜河には大きな町だけど、若者向けの服屋さんは無い。

 不思議なくらい無い。ユニクロさえ無い。

 隣町にはいっぱいあるのに…なぜだろう。

 普段の私の予算だと。長大近くの学生向けのお店に行くけど、明日は特別な日。

 気合を入れて駅前のショッピングモールまで行く。

 三島君の好みはわからないけど、あまり大人っぽいのは違う気がする。

 化粧品売り場で、私に合う化粧品を店員さんと相談して、化粧に合った服装を選ぶ。

 露出は控えた方がいい。

 許容範囲ギリギリの薄い緑のワンピース。

 長い丈がいい感じ。

 ピンクのパンプス。ヒールは低く目。

 あまり高いのは慣れて無い。

 初めて、マニキュアを買って。

 予約無しで美容室に行って。

 肌にいい入浴剤を買う。

 

 デート前は大変、お金が掛かりすぎる。

 皆、こんな感じなの?

 

 家に帰るとビー玉とチイコが面白がって揶揄ってくる。  

 ビー玉講師の化粧教室、ネイル教室が始まる。

 もうそろそろ、二十三時になる。

 …寝たい、お肌が荒れる。

 ビー玉美容講座は熱が籠もってきたので、続きは夢の中でしてもらう。

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