第31話 涙の匂い 2
空中でゆっくりと降下するしか方法は無いのかも知れないが、それはいい標的にしかならない。
「業太!」
「ああ、見えてた」
「あの様子では追われてますね」
「近くまで向かって様子をみましょう」
「はい、準備は各々で」
現場から離れた場所に車を止める。
「行くぞ相棒!」
段に肩を叩(はた)かれる。
「お、おう行くか」
段は俺を相棒だと思っている?そう言った。
嬉しくなんて無いんだからな。本当…。
…とりあえず頑張る!
森に入る。
鬼の眼は暗闇の強い。
瞳は光を集める。
見たところ八体。
いや、まだいるかもしれない。
陣形は
指示を出している奴が居る。
頭巾を巻いた若い声のあいつが大将首。
まずはあいつを段に任せて、退路を断つ。
三人しかいないから充分な包囲は出来ない。
式神を使うと簡単に探知される。
周囲に気をつけながら、後方の奴から。
一体。
音は無い、誰も気づいて無い。
距離を一定にして、ゆっくり詰めて刺す。
胸からすぐに口まで斬りあげる。
声は上がらない。気道に沿って捌いた。
そろそろ血の匂いが漂う頃合いだ。
時間は無い。
「おい、才字どこにいる?」
人数が減っているのに気づかれた。
気づいた奴から襲われた。
キリギリス頭の化け物は布を噛まされ声を潰されて沈んでいった。
雷静さん、ナイス。
「皆、一旦集まれ。方円の陣」
大将首の指示により今から陣形が変わる。
減った人数が相手にバレる前に殲滅する。
俺は木を蹴る。
響く木霊。
音の出所、俺の方向に視点が集める。
段は大将首の左腕を落す。
もう、両手で刀は振れない。
首を狙う段の斬撃を右腕だけで抜刀して凌ぐ。
右手だけで段に応戦している。
凄腕の様だが切り刻まれている。
段の動きを見るに、まだ目が闇に馴染んでいない様だ。
雷静さんの蹴りは鳥頭の首を捻った。
「応戦はするな!撤退」
大将首のあげた声を待たず敵が散る。
殿(しんがり)は一体、一体が沈んでいく。
大将首は分身し撹乱を試み。
幻影は三十体の式神の群。
立ち向かう奴は偽物なので逃げる奴だけを追う。
こちらも式神を追跡に使うが準備が足りていなかった。全て斬り落とされた。
運が悪い…三人共に溜息をついた。
「仕方ありません、水織さんの処に向かいましょう」
「はい、指令塔の腕を落としましたので拾ってきます」
段は腕を携帯の明かりで探している。
俺は自分の首(てがら)を回収した。
手ぶらで帰ったら、今城さんに怒られそうだ。
五階建てのビルの上の水織とチイコは俺達の姿を見て安心して降りてくる。
無用心だと思う。
俺らが本物だという保証は無い。
敵が俺達に化けていたらどうするんだ?
雷静さんはそこには触れず、車を取りに行った。
指摘しようと思ったが、止めた。
言ったら傷つけるだろうか?
厳しいだろうか?
だけど、水織には死んで欲しくないからな。
短刀『
段がいるから安全だ。
おお、どうなっている?
水織が泣いてる。
段に抱きついて泣いてる。
あの魔女が泣くって、ありえるか?
俺達もいるんだぞ?
そうか。
段だから泣いたのか。
キャラ崩壊ってレベルじゃねぇ。
イメージ変わった。
俺は鬼だから匂いにも敏感なんだよな。
女の子の涙の匂いって。
こんな匂いなんだ。
…。
……。
とりあえず写メっとこ。
動画もいけるか?
チイコは隣でほくそ笑んでる。
「おい、業太。こんなのもあるぜ」
チイコが携帯を見せてきた。
特攻服?
何この水織…。
「送ってくれ、全部」
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