第26話 這い寄る手 1
「私は神だ、お前の願いを叶えよう」
赤い布切れを全身に巻き付けた黒いミイラの様な化け物が俺を呼び止める。
そう言われた現代日本人はまず、俺もヤキが周ったと思うのが普通だろう。
ここ最近は幽霊が見え出したし、カウンセリングに行くのが遅すぎた。
心の病気かストレスか、中学の時やった合法ドラッグが原因か?
金と興味本位で薬運びの仕事中、乾燥レンガを味見したのが始まりだったけど、今は辞めた。
もしかして夢なのか、コント番組でも見ているような気分だ。
毎日、盛場の客引きに会う感覚で幽霊にさっきみたいに声を掛けられる。
ほとんどが、その場で消えて
ここ数日は幽霊が出続けても無視している。
まして、下校途中の雨の中、さっさと帰りてぇ。
こっちで、頭黒くして真面目にやってりゃほとぼりが冷める。それまで大人しくする。
次は家裁エンドじゃ済まない。
トラブルは勘弁だ。
だけど、普通は退屈。
真面目ぶるのも肩が凝る。
保護司を納得させる為に勉強して赤点回避くらいの勉強はしとかないといけない。
学校もフケれねぇし、ゲームも漫画もスマホさえ学校に持ってこれない。
名古屋(あっち)にいた頃には、学校に居られるのは三時限目までが限界で、すぐに繁華街か
暴れて、騒いで、舐めてくる奴は潰して。
楽して金儲け。
いざ捕まったら抵抗せずに、演技する。
「悪い事とは思わなかった、自分がした事が恥ずかしい」
これだけ言っておけば、大人達はまだ若いからだとか、周りの環境が悪いからだとか言って、擁護してくれる。
こっちに飛ばされた時。
「最後のチャンスだからしっかりやれ」
クソ親父に偉そうに言われて、田舎の伯父さん家に飛ばされた。
暇だー。
パーっと行きたい。
パチンコに行きたい。
金が欲しい。
女と遊びたい。
薬も欲しい。
覆面して、誰か襲うか?田舎ならバレない。
もう、こんだけ我慢したから、少しくらい羽目外してもいいだろう。
部屋に帰ってもやる事は勉強ぐらいしかない。
「期末試験が近いから」って言って。
三島と鬼雀さんが貸してくれたノートを写す。
退屈だけどなぁ、あの二人は好きなんだよな。
ゲームも漫画も音楽の趣味も合う。
特に三島は俺に優しいし、鬼雀さんは可愛い。
俺らのノリとは違うけど楽しい。
本当の俺を知ったらどうなるんかな。
そんな事、知ったこっちゃねぇ。
…そうは思えなかった。
俺はクズだがあの二人もクラスの奴らに恩はある。
恩返しするかは話は別だが、まともなのも少しは悪くない。
そんくらいはわかった。
伯父さんも、俺が良い成績取って真面目になったら、スマホとかゲームとか買ってくれるかもしれねぇしな。
バイトするのも許可してくれるかもしれない。
ダメ元でやるだけ、やってみよう。
バカだってバレるのも恥ぃしな。
四十分も勉強した。
俺もやれば出来る。
中一までは勉強出来てたし、何とかなる。
もう、やる事無くなったし、もう寝る。
あああぁあ…パチンコ行きて。
…。
……。
………。
汗をかいている。
すげ蒸し暑い。怠い、重い。
シャツをまくると手に泥がついてる。
腹から胸にザラザラして気持ち悪い。
背中はデコボコして、後頭部が痛い。
何で?夢か?クソみてぇな夢だ。
目を開けると外だ。どうも現実らしい。
何だ?薬やった覚えはねぇ。
「ほう、記憶介入の痕跡があるな」
「どうする、七夜河の世話役共は厄介だぞ」
「バレる訳にはいくまい」
「この少年に干渉するのも、まだ早かったのでは?」
「■■■様のご判断に異議が?」
「誤解されては困る」
「我々は■■■様には逆らえん」
「そうだ、仕事をするだけだ」
数人の男の声が聞こえる。
身体が重い、怠くなって動かない。
薬が切れた感覚に似てる。
拉致られたみたいだ。
誰が?思い当たるフシが多すぎる。
拉致る為に名古屋から来たのか?
ご苦労なこった。
ああ、殺されるパターンか?
何人いる?
ラリった身体で逃げられるか?
「おい、こいつ起きている」
「ああ、呼吸が起きている」
…何でわかった?
「起きろ」
気付かれた以上、気を失ったフリをしても意味が無い。
眼を開くと、化け物達が俺を囲んでいた。
何回見ても相変わらず化け物は気持ち悪い。
周りを見渡しても逃げる隙は無い。
驚きを隠す、下手に喋れないし、下手に動けない。
「さっさと起き上がれ」
言われた通りにする。座る
「貴様は金原剛で良いな」
「…はい」
ヤベェから敬語だ。
「貴様は自分の置かれた状況をどこまで理解している?」
「はい、寝ていたら、ここに連れて来られてます」
「そうではない、私は魂消祭の事について聞いている」
こんしょうさい?何の事だ?
「あの、『こんしょうさい』っていうのは何ですか?」
「誰が、質問して良いと言った?」
何て答えれば良かったんだよ。
「待て、こいつは聞かされておらんぞ、そういう生贄だ。聞いていない生贄だ」
生贄?俺がか?こいつらに生贄にされるのか?ふざけるな。
何とかこの場は逃げる。
隙が出来るまで待つ。
「質問を変えた方がいい、貴様の異能の力を答えろ」
いのう?何の事だ?どう答えれば満足するんだ?
「………何て答えればいいのか、わかりません」
「おい、いい加減にしろ小僧、我々は何時(いつ)でも貴様を引き裂けるぞ?」
さっきから、こいつらが何を言っているのか分からない。
「おい、こいつは変だ。生贄の癖に異能が無いのかもしれないぞ?」
「ああ、異能持ちなら、我らに攻撃する筈だ」
「そんなバカな事があるのか?」
「もう、我々の世界では何でも起こるだろう。神々の戯れだ」
「神々の戯れか、この小僧も哀れよな」
おい、同情されたぞ、腹立つな。
「同情している場合ではない。報告はどうする?」
「我々が小僧の異能を
「それしかあるまい」
「それしかあるまい」
何の話をしているのか、もう付いていけない。
「準備をする、小僧動くな」
化け物達は奇妙な粉を掛けたり、水を被せる。
俺は抵抗どころか何も動けない。
奇妙な儀式と不可解な言葉に包まれ、実験台になっている。
「うぐぅぅ!」
身体の奥底が弾ける。
両手、両足が弾ける。
弾けた振動が肘に向かう、膝に向かう、心臓に向かう腹に向かう腰に向かう、下っ腹に向かう。そのまま伸びて首に向かって止まる。
伸びをした時に脱力して血が巡った様な騒めきが万倍になった感覚。
薬では味わった事のないサッパリ感。
毒が脳をバカにして作った爽快感とは訳が違う。
「何これ最高」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます