第25話 段は業太が羨ましい 2
雨上がりの町にタイヤが地面の水を弾く音。
エンジン音、排気音、首を傾けると鳴る風切り音。虫の声。闇を裂くランプが光景を流していく。
「どこ行く?」
業太の声は弾んでいる。
「長崎駅前の
「うわーどこ行くか迷うな!つか黒龍は弾けすぎだろ、二十三時閉店だから、間に合わねぇって」
「何言ってる?俺(XSR900)を誰だと思ってる。着くに決まってるだろ、業太、ハンドリングの邪魔すんなよ。後のお前も体重かける時は業太に合わせろ。俺の走りの限界を魅せてやる!」
ライダーはバイクに行き先を決められる。
バイク愛好者の中では、そういう事がまま、否、よくある事らしい。
普通なら、三時間かかるこの行程。
オンロードなのに五十分で着いてしまった。
…まず短い直線でも自主規制㎞出すのはどうかと思う。
連続ワインディングコーナーをテールスライドで自主規制㎞で進入するのはダメだと思う。
お前(XSR900)のトラクションコントロールはどうなってる!?
業太と息が合って無くて加重に付いて行け無かったら曲がれ無かったろうコーナーはいくつあった?
つい、バイクの事はわからないのに、意味不明なツッコみをしてしまった。
身体能力が常人じゃなくて良かった。
僕は排気量はもう少し低くていい。
…と、今は思ってる。
道路交通法は安全で事故無く運転出来る、素晴らしい法律だと思う。
本当に上手なライダーは公道では大人しいのだ。
エレガントでスマートなライダーに僕はなる!
正に命懸けでラーメンを目指して走って来た三人だった。
目的地に着いてラーメンを食べながらバイク談義に話を咲かせれば、帰りもきっと楽しめる。
実際、身体はバイクを降りて、スリルでアドレナリンが満ちている。
エンジンの振動が身体に残って心地良い。
足の先が振動で麻痺しているのが愛おしい。
ラーメン大盛り、チャーシュー、煮卵、ホウレン草、海苔トッピングに麺硬め。
炒飯セットを食べた後、店の外で缶コーヒーを飲んで締める。
人類最高の贅沢だ。
早く店に入ろう、バイクで冷えた身体を暖かいスープで満たそう。
まず、満たそう。
店の前で業太は直立不動で動かない。
業太の様子がおかしい。
それは違う。
そんな顔をしちゃダメだ。
今から人類最高の贅沢を堪能する最高の時間。
それを一緒に、分かち合おう。
そしてお互いニンニク臭くなって帰ろう。
本日臨時休業 黒龍店主
「業太………明日って空いてるか?」
「……空いて無い訳ないだろ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます