第21話 早見小百合は殺して死ぬような女じゃない 2
繁華街の離れにあるビジネスホテルの前で張っている。休日ほどでは無いが人通りは少なくない。
張って十分経たない内に詐欺三人組がホテルから出てくる。
今日の仕事の祝杯を挙げるってトコだろう。
機嫌が良い、盛り上がってる。
大人に化けたビー玉が接触開始。
頬は赤く、上気している。
いかにも出来上がった酔った女の演技。
オフショルダーでノースリーブのワンピース。色はベージュ、白のヒール。
大人の女のビー玉は色気がヤバイ。
真っ赤な口唇から吐息を漏らし、ゆっくりと口を動かし男達に話しかける。
「お兄さん、私、今日さ失敗したの聞いてくれない?」
「お、なんだ姉さんどうした?」
「すごい困ってて、彼氏がくれた財布を
「お金ないからタクシーも呼べなくて困ってるんだけど、お金貸してくれない?」
「ああ、金貸しても良いけど、俺達の車で連れて行ってもいいぞ」
「ホント?助かる、お礼は何でもするから…お願い」
ビー玉の色気に男達は完全に参ってる。
私も大人に化けるとビー玉に言ったら。
「チイコには、まだ早い」と言われた。
確かに私には、あの色気は出せない。
化粧は良くしてたけど、あの男の喜びそうな表情とか仕草。
酒を飲んで隙だらけいつでもどうぞ…といった雰囲気。
ああいうのは…どこで習うんだ?
ビー玉も幽霊歴は長いし、どこかで勉強してたんだろう。いつもは子供なのに。
男達の車に乗り、稲佐山に向かう。
私らは
「三ケツが照れる」とか「腕が胸に当たるから」とか根性の無い事をほざく英助は走らせた。
根性無え奴は乗せない主義だ。
人気の無い山道に差し掛かり、雰囲気は雨で出来た霧も手伝ってヤバさ満点。
車の中でビー玉も何か仕掛けている。
雰囲気がおかしい。
聴覚選別。車内の会話だけ聞き取る。
「どうしたんだ、姉さん顔色が悪くなってるぞ?」
「大丈夫、もう私。我慢できないの」
「なんか上ばかり見てるけど、キマってんのか?」
「おい、姉さん。無くした財布の中にヤバイもんが入ってるんじゃねぇだろうな?」
「
「うふふ、楽しみましょう私の恥ずかしい所、みんなにいっぱい見て欲しいの」
「とにかく、上ばっか見てんの萎えるから眼は閉じててくれ」
「大丈夫、あ…そこの道左に曲がったら車止めてちょうだい」
大きなシナの木の前で車は止まる。
皆、車から降りると懐中電灯を付けたり携帯電話で灯をとる。
「あった…あれ」
ビー玉が上を指差す。
皆でシナの木を見上げると女の首吊り死体がぶらさがっている。
顔は真っ赤な口紅が歪み縄で抑えられて口を閉じたまま笑っている様に見え、目は上を見続けている。
車の顔と同じ顔。
ベージュのワンピースに白いヒールは片方だけ履いていない。
「おい、あれ…」
木に引っかかっている財布が落ちる。
さっきまで車に一緒に乗っていた女は木から釣られている。
さっきまで隣にいた女は何処にもいなくなった。
脳内に直接話しかけられる。
「うふふふふ、ありがとう、連れて来てくれて…」
男達の混乱は極まり車に乗り込むが、車はダヴィが電気系統を全て落としているので、車のライトさえ消えた。
車はもう動かない。
山道の闇の中、懐中電灯や携帯電話の灯も消えた。
もう誰も助けに呼べない。
「おい!どうする?おい!」
「知るか、俺が教えて欲しいくらいだ」
「このまま、ここには一秒もいられねぇ」
「なんだ?どうすりゃいい、お前なんとかしろよ」
「車が動かないからどうしようもねぇだろ」
チイコは窓に張り付く。
「うふふふふ、楽しみましょう。
「うわぁぁぁっぁ、うわっ!うわっ!」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なんで?何?何?何でだ!」
頭を抱え込み恐怖に凍りつく。
車の窓には男達三人の汗と恐怖の叫声により結露で曇り始めた。
バタバタバタバタ、豪雨が車を叩く様なリズム、人為的な不快なリズムで窓中に黒い手形が付く。
「外に出て?楽しみましょう」
「やめろぉぉぉぉぉ!何も言うな!言うな!」
「だから、頭の中で喋るな、気持ち悪いぃぃ!」
一人の男は恐怖の余り、歯を食いしばり過ぎて歯が砕けた。
口の中の血が鉄臭い吐息を生んでいる。
「おえぇぇぇぇぇ、おえぇぇぇぇぇ」
「おい、吐くな!」
「もうダメだ、もうダメだ、もうダメだ!」
車の中の三人は、もう二人は限界だ。
このまま行くと失神するかもしれない。
ビー玉とダヴィは休止の合図を出す。
こっからは私、一人でやる。
現界して実体化。身体を構築する。
バイクの排気音とライトの灯に釣られて男三人は車から降りると。一人は完全に腰が抜けている。
「おう、何やってる?」
私は冷たい目で三人を見下す。
「助かった、おい一人か?」
「ああ、お前ら臭えな、何やってんだ」
「ああ、助かった、助かった。おいガキ、車呼べ携帯持ってんだろ?」
「こんな山奥、携帯繋がんねぇよ誰がガキだ!ボケ!気分悪いから行くわ」
「おい!こんなとこに置いていく気か?」
「私の知ったこっちゃねぇんだよ、じゃな」
「おい、待て俺らを助けとけ、金ならある」
「ああ?金で何でも解決か?カスが私の単車に跨れっとでも思ってんのか?」
男達は私の啖呵に気圧される。
私の単車を奪おうと一人が私に襲いかかる。
蹴りで腰から吹っ飛ばそうとしてきたんで、掴んで足を脛から折っといた。
もう一人来た。
金属バットで横一文字に顔面を狙って来たんで
ギチギチにバッドを握っている素人振り。
踏み込んで手首を捻らせ、捻挫コース。
上手く間合いと取ればダメージが少ない。
顔面頭突き《チョーパン》。
動けなくなったからタマも蹴り上げとく。
「おい、ガキこれ何か知ってるか?」
「大人がオモチャ持って粋がってんのか?」
本物の
「女相手に素手ゴロも出来ねぇのか?」
「うるせぇ、動くな?お前は滅茶苦茶にしてやる、逃げても無駄だ、顔も単車も覚えたからな」
「オメーもたいがい外道だな」
「うるせぇ!知ったこっちゃねぇんだよ」
全弾打ち尽くした。
全部当たったけど関係ねぇ。
さて、素手ゴロタイム。
「何で立ってんだ?バケモンかお前?」
「もう終わりか?」
「私は殺して死ぬような女じゃねぇんだよ、昔からな!」
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!
吹っ飛んでいきやがった。軽いね。
…にしたってよぉ。
顔覚えたからってか?探し回って見つけても私はとっくに
見つけて震え上がりのはお前らだ。
「かっこいい…ヒーロー?」
ダヴィが浮かれてる。
「やり過ぎ厳禁、死んだらどうすんの?」
ビー玉は大人姿で腕組んでムクれてる。
「ああ、でもまだ暴れ足りねぇよ。英助はどこ行った?」
「私達を探して迷子になってるんじゃない?」
「あいつも気合が足りねぇな、後で特訓の相手させよう」
その後、
桜尋様に報告したら、褒めて貰って子犬を可愛がる様に撫で回してくれた。
…わふわふ、もっともっと触ってわふわふ。
今城さん、業太に英助、ビー玉、ダヴィよ、幻滅すんな。
もう、これが私の一番の楽しみなんだから。
愛車を仕舞って、家に帰ってみると家の中は平穏だ。
婆ちゃんが起きてて親父、母ちゃんと話してる。
「今日、お昼寝してたら、小百合が夢の中に出て来てね。凄く嬉しそうに仏さんのお膳を食べてたの」
「そうか、小百合はよく食べてたからな」
親父はしんみりと笑っている。
「外で喧嘩ばっかしてたけど、凄く優しい娘だった。今でも私達の側で見守ってくれてるんだろうね」
「明日は小百合が好きだった唐揚げを精進で麩揚げにして作ろうかね」
なんだよ…。やめろよ、泣いちまうだろう?
婆ちゃんは私の写真の写真に手を合わせると床に着いた。
「婆ちゃん。疲れたろ」
私はガキの頃とおんなじ感じで婆ちゃんの横で婆ちゃんの顔を見つめる。
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