第16話 近藤英助は死に切れない 1

 今日は、魂消祭の選手が決められると言うことを今朝、聞かされた。

 この間、禁忌の家事件でやらかした俺は選手になる事はないだろう。

 まだほとぼりが冷めていないし、経歴が浅い。


 こんな、暗い気分の時には嫌な事、特に自分が死んだ時の事を思い出す。

 今まで何度も済んだ事だと言い聞かせても、こればかりは仕方がない。


 今年の春、学校帰りに空手の稽古をしての帰り道の夜に車に跳ねられて死んだ。

 相手の男は飲酒していて酒が無くなったので車で買いに行った途中で俺を轢いた。

 俺も体力があるし手早い救護が受けられれば、まだ生き残れたかもしれない。

 しかし、男は俺に気付かずにそのまま走り去った。酔っ払って前後不覚だったそうだ。

 すぐに出血で気を失って、そのまま死んだ。

 死んだ後に自分の人生を全て失った事に荒れに荒れて、自分の葬式にも行かなかった。

 葬式に行くと自分の死を認める事になるんじゃないかと自分の死を否定した。

 すぐに段が葬式に来ていない俺を見つけてくれて、現在に至る。

 あっという間の人生。

 死んでからもダラダラするばっかりで退屈だった。

 そんな時に魂消祭の話を聞かされた、俺は選手に選ばれたかった。

 禁忌の家で手柄を立てたかったが、失敗に終わった。

 皆んなにも迷惑をかけて、今でも段には迷惑をかけている。

 最近、水織が世話役になってから、段に振り向いて貰おうと色々と画策しているらしい。

 段はその気が無いので、迷惑そうな顔になっている。

 女子に好意を抱かれて悪い気はしないが、相手は魔女だ。

 俺を助けてくれた日、荒事では圧勝したが、遊びに長く付き合わされて遊びの方は全て完敗したそうだ。

 あそこで心が折られたらしく苦手意識を持っている。

 俺も虫籠に閉じ込められて怖い思いはしたので水織に対しては苦手意識を持っている。

 今となっては水織は世話役になったし、桜尋様と太いパイプもある。

 しばらくは水織には頭が上がらない日々が続くだろう。

 まぁ、この前の事件であちこちに謝りに周らないといけないくらいのポカをやってるので、俺が選手に選ばれる事は無いだろう。

 …もういい、考えても仕方が無い。

 どうせ選ばれ無くても付き合いがある。

 とっとと用事を済ませる感じで選手達を盛大に祝ってやる。

 トボトボと桜尋神社に向かう。

 

 早朝の桜尋神社にこの町の霊達が集まり終えた。

 梅雨の晴れ間が広がっているが、十一時からは荒れた天気になるらしい。

 桜尋様は霊達に御神酒を配り労いをと祝賀を込めていた。

「今日は集まって貰って悪かったな。もう、皆も解っていると思うけど、魂消祭の選手を発表したい」

 霊達は騒めく。

 桜尋様の眷属の長である今城様は書状を広げ読み上げる。

 近藤英助。

 不破たまき(ビー玉)。

 早見小百合(チイコ)。

 丹羽・ダヴィッド・京吾…。

 …以上だ

「因みに、この選考は寺社関係を含む世話役の方々、鬼雀地頭の意見も含めて決定されたものとする」

 ほとんどの霊が賛同して、魂消祭の選手について異論が出る事はなかった。

 俺は飛び上がりたかった!嘘だろう?何だ?ドッキリか?

 隣のビー玉が俺の袖をグッと掴んで全ての挙動を制した。


「わかっている、喜び踊るのは段に報告してからだ」

「わかればよろしい」と袖から手を離した。


 一人づつ抱負を言うように言われたが、何を言ったか覚えていない。

 鬼雀地頭は嬉しそうにデッカい拍手をしてくれたのはジンときた。


「続けて、閻魔庁からの報告だ」


 この町の霊達が、次に何に生まれ変われるかの予測を一人づつ発表される。

 いわば閻魔庁からの成績通知である。


 英助は椿の木。

 不破たまき(ビー玉)は天国。

 早見小百合(チイコ)は生前喧嘩ばかりしてたのでスズメバチ。

 ダヴィッドは死んでから悪さをしたのでダンゴムシ。

 

 餓鬼道に生まれ変わって幽霊として過ごしている俺達でも申請すれば次の生まれ変わりへの旅路に向かう事が出来る。

 現世で善行を積むと生まれ変わりの条件が良くなって今のところ『椿の木』に生まれ変わる俺でも、人間や天国に生まれ変わる事も可能だ。

 霊にも色々な奴がいて、俺達の様に善行を積んでいくのを目指すタイプと逆に霊の能力に溺れて悪行を積んでいくタイプがいる。

 閻魔庁からの報告は励みになる。

 前は『菜の花』だった。

 桜尋様の手伝いや町の見回りでコツコツ善行を稼いできた。

 最近では閻魔庁の報告は俺の数少ない楽しみになってきている。

 

「以上が、閻魔庁からの報告です、皆善行を積んでいるだろうが、更に今後に期待している。」


「よし!堅い話は終わり!宴会だ!」


 この町の霊達が持ち寄った御馳走が並べられる。

 世話役一同からの供養。

 雷静和尚の精進料理。

 七夜河中の神社の主。

 …皆が惜しげもなく魂消祭の選手達に英気を養って貰おうと持ち寄った。

 俺の場合は「おめでとう」と言われる前にまず禁忌の家に侵入した事を多数の霊達にいじられる。


「よく、あんな事やらかして選ばれたな!」

「若気の至りは良いけど、ビー玉達に迷惑かけるなよ?」

 ビー玉は小さな手で俺の耳を引っ張り。

「この子はバカだけど、私が世話しますから」

「うるせぇガキ扱いすんなよ?」

「お前ぇはガキだ、馬鹿野郎」

 ヤンキー女子のチイコが頭を引っ叩く。

「なんだよ!お前の腕力は空手やってた俺よりヤベェからな!このメスゴリラ!」

「ビー玉、反省が足りないみたいだから殺ろうか」

「年季の違いを見せてあげよう!」

 俺はビー玉、チイコをはじめ他の悪戯好きな霊達に揉みくちゃにされている。

 そこに桜尋様と鬼雀地頭が加わった!

 ダヴィだけがアワアワと狼狽ていると、周りのおばちゃん霊達に金髪ハーフ小学生男子は捕まった。

 今城さんと業太は黙々と御馳走を頂きながら、今からの激務に備えていた。

 

 片付けが済むと、皆からお祝いを貰う。霊の世界で通貨があるのは死んだ当時驚いた。

 予選まで気を引き締めて行かないと。

 これだけ、お祝いされるとサボっている姿は見せられなくなる。

 元、同級生の鬼、業太と今城さんに毎日、稽古をつけて貰える様になった。

 今日の宴会に段は来ていなかった。

 学校があるから仕方無いが、後で改めて挨拶に行きたい。

 あいつはきっと喜んでくれる。

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