第15話 幕間 魔女の仮面

「有難う、お陰で成仏出来ました」

「最初は誤解してたけど、あなたのおかげ」

「元気にしてっか!相変わらず笑わないのか?」 

 あの世からの手紙がたまに届く。

 桜尋様が届けてくれる。

 手紙の主は覚えて無いけど、感謝されるのは悪い気がしない。

 私の家に侵入して捕まえていた霊は、私の暇つぶしに勝利した結果、成仏していく。

 私の初恋の人、三島君がこの町の世話役だと知った時は恥ずかしくてこの異能の力。

籠目宿かごめのやどの事は知られたくなかった。

 中学の時、桜尋様に世話役を勧められたけど、三島君とどう接していいか判らなかったし、照れてしまって断った。

 

 結果、私は魔女と呼ばれてる。

 三島君にも魔女と思われている。

 だけど私は『こじらせている』素直な少女じゃいられない。

 今まで通り魔女でいる。

 三島君に向かって一歩歩くのが怖い。

 一歩進め方が分からない。

 だから、学校でも彼とはなるべく接触しない。

 謎の敵っぽく演じる、魔女っぽく喋る。

 彼の方から私にアプローチをかけてくる事は無い。

 桜尋様が私の願い通り『魔女指定』したから。

 これまで通り、この家に霊が入ってきたら閉じ込めて成仏するまで世話して成仏するまで面倒を見る。

 これからどうなるのか解らない。

 だけど心配しても仕方ない。

 期末テスト前の勉強をちゃんとして学力を蓄えておく。

 三島君の進路と同じところに行ける様に。

 

 雨が強い夜、雨風の強い日に誰かに

「すごい雨だわ」って話すのが私は好き。

 人に言ったら変だと思われるだろうか?

 虫籠の霊も成仏して居なくなって。

 近頃寂しくなってきている。

 

 雨で湿気が強くなってきてる。

 ミコトからの電話、取り止めもない話。

 バイトで楽しかった事。

 学校で楽しかった事。

 家で楽しかった事。

 素直で明るいミコトは楽しかった事しか喋らない。

 陰口やスキャンダル、ファッションの話も好きだけど、それらの電話よりミコトとの電話は長いものになる。

 

 この楽しい電話中に結界に幽霊が侵入してきた。

 敷地内にいる。

 よりにもよって、私の部屋を入り口にするとは、相当バカな霊だと思う。

 よく見ると近藤英助。

 今年の春に交通事故で亡くなった同級生。

 幼稚園の頃から知っている。

 確か空手で中学校の頃に全国優勝していた。

 七夜河の期待のヒーローだった。

 …そうか、英助は成仏しなかったんだ。

 

 部屋の中をキョロキョロしている。

 私は気付かないフリをする。

 私をどうこうするつもりはない様子。

 覗き目的だったら『スペシャルコース』だったんだけど…。

 部屋から出ようとしたので糸でグルグル巻きにして虫籠に入れておいた。

 

 さて、情報収集。

「侵入の目的」

「七夜河の霊達の動向」

「魂消祭の進行」

 ついでを装った世話役としての三島君の情報。

 今年の春の魔龍退治の話。

 人食い家での活躍。

 鋏犬を捕獲して式神にした話。

 

 結構、色々やってる。

「なんか、段の話ばっか聞いてねぇか?」

「どうでもいいわ。それを知ってどうするの?町の情報を言いなさい。どうせ大した事は知らないんだろうけど…新米の霊だから仕方ないわね」

 

 情報の出し渋りをすれば拷問する。

 くすぐって失神するまで追い詰める。

 痛めつけるのも良いけど、あまり好きじゃない。

 私は治癒能力を持ってないからだ。

 『魔女の仮面』を最大限に利用する。

 恐怖で判断力を鈍らせる。

 

 私が三島君に好意を持っている事は伏せる。

 。魔女の仮面を被ればそれが出来る。

 

「お前、もしかして…段の事好きなんじゃないの?」

「それは今、関係無いわ、もっと情報を渡しなさい」

「いや、お前…段の話する時。嬉しそうだからな?」

「うるさいわね、それは今はどうでもいいわ」

「俺がなんで侵入してきたか目的とか聞かねぇの?」

「全く興味無いわ」

「そこ興味持てよ!」

「三島君は必ずあなたの事を助けに来る。その為に敵の情報は多い方がいいから聞いてるの」

「あいつは来ねぇよ」

「いえ、絶対に来るわ」

 三島君が幼馴染みを放って置くわけがない。

「この家は桜尋様が侵入してはいけない禁忌の家に指定してるからな、そういや他の霊達はどうなっているんだ?」

「みんな成仏したわ、あの世から手紙が来てるけど、見る?」

 あの世からの感謝の手紙を見せる。

「なんてこった…俺は無駄足だったのか…」

「そう、無駄足よ、みんなもういないんだから」

「そうか、じゃ俺も暫く世話になるって事?」

「そう、もう帰れないわ」

「俺は魂消祭に出たいんだ!頼むから出してくれ!」

「今まで私は魔女でやってたんだから、あなただけ解放したら変でしょう?」

「そこを何とか頼むよ、水織!」

「じゃ、三島君の情報を出しなさい。考えてあげるから」

「やっぱり段の事聞きたいんじゃないか?」

「しつこい男は嫌われるわよ」

 

 ……なんて感じで堂々巡り。

 0時になる前に眠くなってきたので眠る。

 

 

 朝になると三島君からの電話があった。

 丁寧にこちらのご機嫌伺いと面談の約束。

 英助変換の交渉というところだろう。

 予想通りの展開。

 最初は普通に接して後は異能同士の戦い。

 室内戦だと絶対に勝てない。

 でも奇襲した所で勝てるとは思えない。

 

 魔龍を退治する男の子に勝てるわけ無いじゃない。

 

 三島君は私を異能で傷つけるだろうか?

 必要なら命を奪うかもしれない。

 

 だけど、私は構わない。

 幽霊になったらずっと三島君に取り憑くつもりだから。

 桜尋様もきっと応援してくれる。

 

 とりあえず、最高のお茶とお菓子でおもてなし。

 服装にも気をつけて、サクランボの髪飾りも忘れない。

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