第14話 霊障 2
放課後には強かった雨は止んでいた。
思っていたよりも早く
来客を知らせる為に木版を三下する。
雷静和尚は洞吟寺で知客というお寺に訪れる方の接客係をしている。
僕と同じく世話役の一人。
表情を変えずいつも冷静だが、洞吟寺の和尚連中の中では付き合いやすい方だ。
手強い妖怪が現れた時に共闘する事があるが、前線でも後方でも動ける貴重な存在だ。
色々な僧堂は勿論、他宗、神道系の山岳信仰にも顔を出している。
法術、呪術収集家で現在は坐禅に没頭しているそうだ。
「来ましたね、用件は聞いています。早速、
本堂で挨拶をした後、応接間に通され侍者寮の雲水からお茶を頂く、事情を説明する。
次々に大師堂前に向かう。
台が置かれ様々な法具が置かれている。
「今からは何が起こっても驚かないで下さい」雷静知客は
何も変化は無い。
雷静知客は「これは違う」とマッチを取り出し金原君に手渡す。
「これを腕で擦ってみて下さい」
マッチを箱から取り出し左腕に擦ると、擦った場所から左腕が燃えだす。
金原君は慌てて火を叩き消した。
「これですね」雷静知客は僕を見るが、僕は火が見えていないフリをする。
「何が起こってるんですか?」
僕のすっとぼけを雷静知客は察して言う。
「三島さんには理解出来ない様ですが、解決策が見つかりそうです」
「良いですか?金原さん、落ち着いて観て頂きたい」
雷静知客は自分の腕にマッチを擦り、全身がゆっくりと燃え始める。
しかし、法衣は勿論、雷静知客にも火傷一つ無い。
埃を払う様に腕を振ると身に纏った炎は消える。
金原君は驚いた顔で雷静知客を見つめている。
「この能力は
「俺、努力します。是非この力が自由に操れるまで助けて下さい」
「いえ…」
「この術は危険な妖術の類です。この禅の道場では必要の無いもの、むしろ純粋な修行の退けになる物なのです。残念ですが指導する訳には参りません」
「だったら俺はどうすれば良いんですか?」
「私と致しましては、この火生に頼らず御仏に
雷静知客は能力で霊を退けるよりも、生活で霊を退ける方法を提案している。
ヒカリと同じで仏法を守護する天人の加護を得る方法だ。
しかし、そうなるとまだ決まっていないが魂消祭の予選メンバーにとって彼は相当な難敵になるだろう。
僕には今、発言権は無い。判断は彼に委ねられている。
「…少し、考えさせて下さい」
「はい、修行は仏縁に
雷静知客は参禅のしおりを渡す。
細かな寺内の修行の
外は暗くなっており、街灯の無い坂を降る。
「今日はありがとう」
しばらくして金原君が口を開く。暗い中で表情は見えない。
火生の覚醒は金原君の人生においてかなり危険なものになるが、自衛能力は得た。
僕の様に桜尋様に師事して秘剣の使い方を修められれば良いのだが、色々な事情で問題がある。
まずは一番に揚げられるものは今、魂消祭の生贄を成長させるのは公正では無いという理由で養成を断るだろう。
時期が悪い。
かと言って金原君が覚醒した以上、放置は出来ない。
桜尋様をはじめ色々な人に連絡、相談する必要がある。
まずはこの後、桜尋様に相談に行く。
参禅を重ね霊を退ける方法。
火生を安全に操作させる為に誰かに師事出来る様に促す方法。
どれをとっても金原君の出方を窺わなけれいけない。
今、僕にとって最善の方法は手荒だが金原くんの記憶操作だろう。
初心者の自衛能力としては火生《かしょう
》は危険すぎる。
火生は上手く操作出来ないと、手当たり次第に焼いてしまう。
下手をすると家や町が焼かれる。
その危険な能力を、なぜ覚醒させたかというと大体、こんな感じだろう。
1、僕に金原君の能力を教えたかった。
僕は火生の能力を持つ生贄の監視が容易い立場にいる。
2、僕は不都合なら記憶介入出来る人脈を持っている。
…最適解は見つからないが、危険なままだ。
火生の記憶は奪っておかないとマズい。
雷静知客に挨拶をし、金原君をバス停まで送る。
別れると身を隠し、英助に緊急要請の式神を飛ばす。
火生の発動条件を知っているだけの今、早急に手を打たないといけない。
今日中に英助に記憶介入をして貰う。
火生発動の記憶を奪う。
無茶だがを火生を暴走させるのは危険だ。
一分も経たず英助達とは合流出来た。
ビー玉、チイコ、ダヴィも連れて来ている。
事情を話すと皆、快く引き受けてくれる。
腕試しには丁度良いという。
金原君が乗るバスが発車すると、四人はバスの天井に乗って
何とかバスに乗り込めて良かった。
霊だと尾行が楽で助かる。
後は英助に任せる。
後は無事を祈る事くらいしか出来ない。
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