第9話 三島段の日常 2

 教室に入ると、ヒカリがこちらに駆け寄ってくる。

 梅雨の中にヒマワリが咲いた様な笑顔。

 いつも彼女はヒマワリだ。

 鬼雀ヒカリ、十六歳、テニス部所属。

 明るい性格で曲がった事が嫌い。幼稚園の頃からの幼馴染み、ゲーム仲間の一人だ。

 鬼雀謙三郎の孫で、名士の家の娘だけど、普通に接してくれる。

 あと一人、春原(はるはら)ミコトという明るい女子がいるけど、それはまた別の機会で。

 

「段、知ってる?今日、転校生来るんだって」


「え?期末前のこの時期に?」


「どんな人が来るんだろうね」


 予鈴が鳴る。席に座る。

 担任の沢部(さわべ)先生が教室に入り、続いて転校が入ってくる。

 身長が高くて、目付きが悪い!

 クラス中が第一印象『ヤンキー』で統一された。

 今は髪は黒いが数日後には金髪になっているに違いない。


「名古屋から転校してきました金原(かねはら)剛(つよし)です、よろしくお願いします。両親の転勤の都合で、こちらに転校しました、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」二回言った!


 緊張してるんだな、周りもクスクス笑ってる。

 あだ名は当分『リピート』だろうなと予感した。


「三島君の隣が空いてるから席はそこで、みんな金原君と仲良くしてあげてね」


 金原くんは僕の隣に座る


「よろしく」と声は穏やかなんだけど、相変わらず目付きは悪かった。

 

 一限目が終わり、金原くんは早速、皆に囲まれていた。

 当然、僕もヒカリも混ざる。

 話をすると見た目とは違い、金原くんは普通だった。

 鱈聞たらぎ町からバスで通学している事。

 前の学校でも目付きの悪さをいじられてていた事。

 色々と話してくれるのはヒカリの質問能力とコミュ力によるものが大きい。

 金原くんへの質問コーナーに盛り上がっているとチャイムが鳴る。


「困ったら何でも聞いてね」


「うん、ありがとう」


 昼休みになり、ヒカリとタカシ、健一、金原くんと昼食を摂る。

 僕の弁当は昨日の余りのお好み焼き弁当。

 金原くんをクラスのSNSグループに招待して、連絡先も交換する。

 三十分程、経って平和な昼食は終わり。

 

 魔女との昼休みが始まる。


 適当な理由をつけて、理科準備室へ向かう。

 準備室の鍵は開いており、水織さんが待っている。


「女の子を待たせるものではないわ」


「待たせて悪かったね」


「昼休みも短いし、手短に。私と桜尋様の関係だけど…子供の頃からの付き合いで霊を閉じ込める虫籠は桜尋様に貰ったものよ」


「桜尋様が水織さんと裏では繋がってて水織さんが霊を成仏させていた事…何で桜尋様は隠していたの?」


「私、幽霊が嫌いなの。この糸が出る能力も嫌い。だから桜尋様と話し合ってそうしたの。大体あの人(神)、人使いが荒いじゃない?ちょっと距離を置いておきたいというのもあるわ」


「…」


「私の家に侵入してくる霊は私が成仏させていた功績があるから、桜尋様が黙認していたっていうのもあるんじゃないかしら」


「なるほどね、これからも水織さんは、禁忌の魔女としてやっていくの?」


「いいえ、それはまた話が別。私子供の頃から三島くんの事、好きだった。だから魔女は卒業して積極的に関わっていく事にしたわ」


「ん?さらっとなんて言った?」


「三島くんが私と似た様な能力を持っているって聞いた時、嬉しかった。もうこれは運命なんだって感じた」


「ふーん…」震え声が止まらない。


「高校卒業したら結婚しましょう。子供は四人は欲しいわ」


 一方的な求婚をされてツッコミたいけど、何からツッコんでいいのかわからない。

 胃痛と頭痛が同時にきた!


「桜尋様もお似合いだって。神の祝福を受けてるのよ私達」


(あのバカ(神)なんて事言いやがる!)


「…魂消祭にも関わるの?」


「勿論、未来の夫を支えるのは、妻の務めですもの」


「話はわかった。追々…話しあって決めようね…」


 恐怖の余り手が震えてきている。

 

 初めての女子からの告白が…。

 

 女子からの告白がここまで精神に来るものだとは思わなかった!

 

 予鈴が鳴る、この時間から解放される。

 昼休みが終わる。


「じゃあ、また今度」


「まだ、話は終わってないわ」


「予鈴鳴ったから、じゃ」


 逃げるのは今しか無い。

 水織さんにどう接して良いのかわからない。

 廊下に差し掛かった所から全力で逃げた。


「逃げなくてもいいじゃない、もう!」


 そう呟くと丸椅子の上の小さな弁当箱を持ち教室へ向かった。

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