第10話 三島段の日常 3
雨の放課後、桜尋神社に直行すると
剣で雨を斬る動作と雨を避ける動作を同時行なっている。
最初はずぶ濡れになるが、練度が上がるにつれ徐々に濡れなくなる。
僕は全く濡れなくなるまでには至らなかったが、合格点までは貰った。
業太はほとんど濡れてない。
この梅雨が終わる頃には更に動きが精緻になるだろう。
父は県会議員。
先祖代々、七夜河の豪族の出自。
先祖が地元の町史に乗っている。
大蛇殺しの英雄『
地元で紙芝居にもなっている。
今年の春、魔龍にお母さんを目の前で殺され、その怨念で銀髪二本角の鬼になった。
桜尋様に保護され、その角を隠す術が安定する力量になるまで、人間界には戻らず、桜尋様の保護の元、下働きや修行に明け暮れているらしい。
以前の業太は近寄り難くて氷の様だったが、今は桜尋様のお陰で少しだけ明るくなった。桜尋様のゲーム三昧を注意している姿を見ていると、兄弟の様に見える。
いや、兄妹かな。
七夜河高校には休学中で隠蔽は世話役の僕らが行い、入院している事になっている。
今日、金原くんが座った席は元々、業太の席だった。
業太に声を掛けると笑顔で迎えてくれる。
「桜尋様に用か?少し待ってろ」
社内に入ると空間が変異し、長い廊下を通り客間に案内される。
業太が抹茶と茶菓子を持ってくると、桜尋様が笑顔で登場、上座に座る。
「昨日はお疲れ様、学校でさくやと会ったろ。話はビー玉から聞いてる。まさか結婚にまで話がいくとは思わなかったけどな…プププゥ!」
桜尋様は堪えている笑いが吹き出している。
「もう!だいぶ困ってるんですからね、こっちは!」
「えー?さくやの何が不満なんだ?確かに思い込みは相当烈しいけど、根は良い娘だぞ」
「さくやと結婚したら幸せになれるぞ、保証する、俺って神だからな」
「僕はまだ高校生ですからね、結婚なんて決められないですよ」
「だから、禁忌の家のお姫様に手を出すのか、それとも出さないのか、お前に任せるって言ったろ。お姫様を目覚めさせたのは、お前なんだよ」
「でも英助は助けないといけなかったでしょう?」
「そりゃそうだよな。でも助けないのも、お前の自由だったんだよ。この場合、英助はキューピットって事になるのかな?それとも開けてはいけない
抹茶茶碗を回しながら微笑んでいる。
「お茶立て上手くなったな業太」
業太はそういうのはいいから…段の相談にちゃんと向き合って下さいと、桜尋様に目配せしている。
「因みに今後、お前が何かの切っ掛けでさくやに手にかけたところで俺はお前を責めないよ。お前に『魔女であるさくや』も『お姫様であるさくや』も全部引っくるめて任せたんだ」
…荷が重い話だ。この件については、先任であるお父さんに相談しよう。
この神もうダメだ。
「更に情報を与えとくと、お前がさくやを拒むんだったら、ここからは戦場だ。町の世話役の情報、兵站、メディア、七夜河の霊達のコミュニティーも学校の中の人間関係にも気を配れ。じゃないと、いつの間にか公認のカップル扱いを受けるからな。優しくする時も、冷たくする時も気を付けろ、『魔女』なんだからな」
元、西国の軍神だった頃の桜尋 須多羅の四つ目が朱く光る。
戦備えの算段に血が湧いている。
「鉄十字の
只々、僕は生唾を飲むことしか出来なかった。
業太は気の毒そうな顔でこちらを見ている。
「段、俺も相談くらいなら乗るからな」
業太の目がそう言っている。
…優しくなったなお前…。
「では桜尋様失礼します」
「おう、気をつけて帰れよ」
そう言って二人は帰りを見送ってくれる。
桜尋神社の階段を降り切った段の後姿を見ながら業太は須多羅に質問する。
「お社様、段が困ってます。何故そこまで二人を取り持とうとするんですか?」
業太は段が哀れでしかたなくなった。
桜尋須多羅は頬を掻く。
業太にも言っておこうかという仕草。
「何か訳でもあるのですか?」
詰めたつもりはない業太だったが須多羅は頭の中を整理しながら話し始めた。
「さくやってさ、魔女とか呼ばれてるけどピッタリだろ?そりゃそうだ。アイツはヤバイ魔王になれる素質があるんだよ。魔王じゃなくても、歴史に残る独裁者、世界中に戦火を飛び火させる大悪女になれるんだよな」
「…そんなに危険には見えませんが、加虐的ではあると思いますが」
「素質は充分だよ。さくやの異能は『籠目宿(かごめのやど)』だけじゃないからな」
「だけど、段ならそれを止められる。さくやを普通の幸せなお嫁さんから幸せなお婆ちゃんまで面倒を見て生涯を終えさせる事が出来る」
「段は平和の為の犠牲って奴ですか?」
「段にも幸せになって貰うんだけどな…これが俺の計画なんだけど…外の霊には言うなよ?」
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