第5話 魔女の家 1

 八時に目覚ましが鳴り、寝呆けた頭のまま顔を洗う。

 英助を助けに行かないといけない。徐々に記憶の整理がつくにつれ気が重い。

 元同級生の女子に…連絡しないといけない。

 気まずい。関わりの少ない女子に連絡するのは…複雑だ。


 悪霊とかだったらサクッと終わるのに、人間相手だと穏便に事を進めないといけない。

 夢の中での作戦としては、水織さんにアポイントを取って面談。

 交渉して、英助達を返してもらう。

 最悪、荒事になったら、桜尋おうじん様に協力して貰って、鬼雀おにすずめさん達は最初から後方支援に徹してもらう。

 僕が夕方六時迄に生存確認が出来なかったり、連絡が途絶えたら桜尋様に報告…という流れだ。

 情報は少ないけど、やるしかない…。


 早速、小学三年生の頃に一緒のクラスだったので連絡簿を探して自宅の電話にかける。


「もしもし、水織です」若い女性の声だ。


「突然のお電話で失礼いたします、僕は七夜河高校の同学年の三島段みしまだんという者ですが、さくやさんは御在宅でしょうか?」


「はい、さくやは私ですが」


「ああ、水織さんですか。本当に急に連絡して申し訳ない、なんだかハッキリとは言いにくいんだけど…ちょっと話がしたいんで、忙しいとは思うんだけど…会う時間を作ってもらえると嬉しいんだけど」


「今日、暇だけど」


「じゃあ、近くの喫茶店とかでいいかな?フローライトとかどう?」


「いいえ、家で良いわよ、場所わかる?」


「うん、わかる。何時くらいに来れば良い?」


「じゃ、一時くらいで」


「わかった、ありがとう。一時にお邪魔するね」


「それじゃ」


「うん、また後で」


 ここで通話が終わる。


「世話かけますな」


 鬼雀さんは申し訳なさそうだ。


「大丈夫ですって僕の役割ですから。水織さんの家に行くから菓子折は準備しましょう」 


「はい、桜尋様の件ですが」


「どうでした?」


「桜尋様にお伝えしましたら、『段なら大丈夫だろう』と仰っておりました」


「…わかりました、僕も交渉で済むよう努力します。英助達の無事が第一ですから」


「どうぞ、宜しく頼みます、他の世話役さん達には連絡してますけん、すみません」


 仕方が無い、準備不足でも水織さんと約束したし。

 今は九時だから、随分時間がある。少し時間だが、のんびりできる。


 アパートの二階階段の一番上に座って朝の風を浴びる。

 別に理由は無く、ここで過ごすのが好きなのだ。

 小さな蜘蛛が網戸の横で風に揺られながら巣を作ろうと奮闘していた。

 僕は風に飛ばされながら一生懸命巣を作ろうとしている姿を見ていた。


 下の階は英助の家だ、幼稚園の頃から一緒につるんでいる。

 今年の春に英助が事故で死んだ時は驚いた。

 幼稚園から一緒で高校も毎日一緒に通っていたのでショックだった。

 とにかく世話役として、幼馴染みとして四十九日まではしっかりサポートしようと思っていたら、閻魔庁から飛び出して餓鬼に生まれ変わった。

 無事成仏してくれるのが一番だけど、また英助と絡めるのは嬉しかった。

 そして、また禁忌の家で監禁中。

 僕は反対したのに。

 どんだけ、僕に心配かければ気が済むのか…。


 なんだか気が向いたので英助の家の仏壇に手を合わてせに行く。

 近藤家のご先祖さまに英助の無事を祈るくらいのことはしておきたい。

 下の階で英助のおばさんが掃除を始めた。偶然を装い軽く挨拶して、仏壇に手を合わせることが出来た。


 英助が無事でありますように。


 英助のおばさんからサクランボをパックで貰う。

 水織さんの家への手土産はこれにする。

 冷蔵庫に入れて、お母さんに手土産にすることを伝えると、すぐに十一時になった。

 

 雨が降り出している。

 朝からの風は途切れることなく吹いていて、網戸の蜘蛛は巣を作れずにいる。


 水織さんの家までは傘をさして向かう、十分くらいすると到着する。

 見慣れた近所の家で外見は普通の家。平和な光景には変わりない。

 この家の前もゲームを買いに行く時はたまに通る。


 同級生の家…禁忌の家か…いつも通りやるだけだ。

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