第3話 三島段は夢の中 1

 雨が降り続ける深夜零時、三時までが僕のゴールデンタイム。

 明日は日曜日なので、普段よりのんびり過ごせる。

 三時まで深夜ラジオを聞いたり、動画観たり、スマホでゲームしたり…それが僕の青春。


 期末テストの準備も日課の筋トレもやって、やるべき事やった。

 日課をクリアした達成感の後にダラダラする、これが僕の幸せ。

 最後の締めは二時から三時まで坐禅をして床に着く。


 僕は三島みしまだん、十六歳。七夜河高校に通う高校一年生。

 両親は共に町役場で勤務。妹は中学生。アパートの二階で家族四人で暮している。


 ここまでは普通なんだけど、三島家は代々この町の霊達の行事や面倒事のサポートをしている。

 世話役と呼ばれていて多種多様な職業の人がいて、警察関係、教育関係、寺社関係、建築関係等々で三島家本家は建築関係を担当している。

 分家のウチは両親が役場で勤務しているので必要があれば書類を作成している。


 七夜河町のメンバーは総勢三十人くらいだ。

 簡単に言うと秘密結社。

 日本での通称は『世話役』


 日本は独自に弥生時代からその機能を持っていたが、全世界の似た機構と交流を持ち始めたのは奈良時代からだ。

 利権に繋がらない様にトップの任期は一年と短い。

 基本的に改革が必要としない組織で、本当にマズイ事案は神様に全てブン投げている。

 あくまで、人間と神様、妖怪、霊の健全な生活の為の風紀委員という感じだ。


 古代から人間側に霊的な事が明らかになると、普通の善良な人間でも集団ヒステリーに巻き込まれて混乱し、拡大。世の中が乱れるのは昔から枚挙に暇が無い。

 こうした霊の暴走も人間側の暴走を抑えたり、人間と霊のクッション役みたいな事を僕達、世話役はやっている。


 霊達の平穏の為に、どうしても生きている人間の力が必要な事がある。


 ちなみに家族の中で世話役の事を妹だけが知らない、能力が無いからだ。

 この町では桜尋おうじん神社の主である桜尋おうじん須多羅すたら様を頂点に組織されている。

 次に寺社関係、世話役、霊達という並びになっていて。

 大体の申請事、討伐依頼は霊からの伝令で受ける。


 僕の場合は少し特殊で、『秘剣ひけん』という刃物を生成させる異能を持っている。

 秘剣に目覚めたのは小学一年生の夏休みで心霊特集のテレビを観ていた時だった。

 座っていたソファーはズタズタになった。

 その後もランドセルが切れたり、服も靴も切り裂かれた。

 霊が怖くて、見えた霊は無差別に刃物が襲い、コントロールが出来なかった。

 霊にとっては、悪意なき切り裂きジャック。

 世話役の両親が桜尋様に相談した後。

 夏休みだった事もあり暫く桜尋神社に預けられていた。


 最初は急に神社に預けられて怖かったけど、一緒にゲームしたり川に魚を採りに行ったり、山に登ったりと、夏休みを満喫した。

 夏休みの終わり、秘剣の能力を充分に安定させられる様になった。

 両親が迎えに行ったと頃には、家に帰りたくなくて泣いて喚いて両親を困らせたらしい。

 昔から、子供に好かれる性格だった。今でもそうだ。


 今では秘剣を生かして秘密結社『世話役』のメンバーに入り、神様と霊と人間のパシリに使われている。


 今年は特殊で六年に一度の霊達の大祭『魂消祭こんしょうさい』がお盆に行われ、全国で予選が行われる。

 一人の異能の人間を選び出し『生贄』と呼ばれた人間を霊達が襲う。

 昔は死人続出だったらしいが、現代では悪くて病院送りらしい。

 比較的、安全に留意して開催されている。

 優勝したら一つだけ、神になる事を上限に幅広く願いが叶えられるらしい。

 予選を通過して、お盆の本戦に参加するだけでも相当な名誉で経歴としても一目置かれる。

 過去に多数の魂消祭が開かれたが、人間側に盛大にバレた魂消祭と言えば。

 江戸時代の広島で開催された『稲生物怪録いのうもののけろく』が有名だ。

 当時の神様や世話役は相当、後処理に苦労したらしい。


 人間側に妖怪譚や怪奇譚がバレると、悪い人間も、悪い妖怪や霊達も様々な利益を求めて悪事や扇動を行うので、世話役の存在は重要なのだ。


 携帯電話が鳴る。

 朝八時から深夜三時迄が僕の営業時間。

 時間は選ばず相談に来るけど、大体深夜の相談は幽霊関係だ。


 携帯電話を見ると、鬼雀おにすずめさんからメールが来ている。


「メールで失礼します、急ぎです。今、よろしいでしょうか?」


 ササっと動く。

 部屋着から襟付きに着替えて服装に乱れがないかチェック。

 押入れから六枚ある座布団を全て出して、抹茶を立てる。

 茶菓子を懐紙に並べて置いて、完了。

 変な所から入って来ないようにと返信すると、カツ、カツ、カツと三度廊下の床をノックをした後。


「深夜に失礼致します」


 とても申し訳無さげな声で部屋の前から声が聞こえる。


「はい、入って来てください、何かあったんですか?」


 そう答えると引き戸が開き廊下にズラリと霊達が正座して頭を下げて並んでいる。

 その筆頭は鬼雀おにすずめ謙三郎けんざぶろう、享年七十三歳。


 この町の霊達を取り締まる地頭。鬼雀地頭と呼ばれている。

 歳の割に屈強な肉体、大太鼓のような声でこの町の霊達の長老なのだが、雰囲気としては大親分といった感じである。

 生前は七夜河の漁師網元から海運会社を立ち上げ、町長も務めている。

 この町の戦後昭和から平成にかけての大黒柱である。

 そんなレジェンドには早々に頭を上げて貰う。

 そして…この敬語。

 以前からこの堅苦しい感じが好きじゃないが、これも作法なのだそうだ。

 僕が世話役をする前は桜尋神社から白羽の矢が飛んできて、それに相談伺いの用件が結びつけていたらしい。

 今はメールになった。

 少しづつ昔ながら作法を残しつつも、最終的には鬼雀さんには敬語は辞めさせたいと思っている。

 こんな僕みたいな未成年の子供に人生の大先輩が敬語では恐縮してしまう。


 とりあえず、鬼雀さん達にお茶を勧めて、手狭で座布団が足りてないので話の続きは夢の中で話すことにする。

 

 脳の表面から中枢に向かって、ゆっくり電気を消していく感覚。

 表面から入り口を作って迷わない様に電気をつける。

 言語の障害物を整理整頓して迷わない様に。

 会場は前頭葉あたりで良いだろう。

 

 ベッドで眠ると鬼雀さんを始め霊達は続々と夢に入ってきた。

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