第40話 彼女の理由

「なんで…優しくするの…?」

「なんで…ですか…」

少し困ったように麻梨さんは笑う。

「ただ嬉しかったんです」

淡々と話していく。


「本当は望んで独り暮らしを始めたわけではないんです」

麻梨さんは頭をポリポリと掻く。

「家が複雑で…父と血の繋がりがなかったり、母と上手くいってなかったり」

麻梨さんはニコニコと笑みを浮かべ続ける。

「食事を一切用意されなかったり…家族が帰ってこないと真夏でもクーラーをつけれなかったり」

麻梨さんは少し遠い目をしながら笑う。

「食事は辛かったなあ…痩せたなあ…ははっ」

「麻梨さん…」

「まあ、色々あって…独り暮らしをしなければいけない状況になって…不安がいっぱいで…」

麻梨さんは俯いて少しずつ話す。

「引っ越してきて、荷物もほんの少しで、ガランとした部屋を見渡した時、ああ…隣の人に挨拶しなきゃいけないって」

優しく僕の髪を撫でてくれ話し続けた。

「少しでいいんです、会話の中の優しさが嬉しかった…人間として扱ってもらえた…」

麻梨さんの瞳は潤んでいた。

「それからコンビニでお会いしてお話して…少しずつお会いして…ただ嬉しかった…」

ふいに麻梨さんはキスをしてきた。

「真白さんも辛いのはわかっていました…私なんかが…暗い人間なんかが近づいてもっと苦しめるかもって…」


「でも、二人なら苦しみから抜け出せるかもって」

麻梨さんの抱きしめる力が増した。

「僕なんかで…いいのでしょうか…?」

「ふふっ出会ってしまったのだからしょうがないです…少しずつ変わっていきましょう」

「まだ言えてない事…僕には沢山あります…

「言わなくたっていいんです、人間なのだから言えない事くらいいくつもあるはずです」

「でも!僕はおかしいんです!」

「それならおかしい所を言ってください」

先程の女の行動を思い出す。

「言えません…」

「それなら、今は言わない方がいいという事なんですよ…無理はなさらないでください」

そう言って、麻梨さんは優しく微笑んだ。


そして、後ろの女は汚らわしい物を見る目で僕らを見て、首をかき切るポーズをした。

先程のは、たんなる脅しなのだったのだろうか…女の事を言った時に実現するのだろうか…

わからないが、今は麻梨さんの行為と温もりを少しずつ受け入れていた。

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真夜中の暗がりに 透明な彼女は溶けていく ミケ @mike08

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