第39話 恐喝
口の中には苦味ばかり広がる。
先程味わった旨味は消えていた。
それ以上は何も聞かない麻梨さん。
あんなにもしおらしくしていたのが嘘のようにクスクスと笑う女。
美しさを纏ったその舞はいつまでも見ていられるくらい美しいものだった。
だけど
麻梨さんの手を激しく掴む。
「実は…」
全てを話してしまおう。そう決意した。
「僕には…」
麻梨さんと同じような人間の幻聴が見えるんだ。そう言おうとした。
だけど…
女は自分の首に包丁を突き立てて言った。
「真白…よく考えて。もしかしたら…もしかしたらよ?私が今自殺したら…桐谷麻梨に影響があるとしたら…どうする?」
激しく心臓が脈打つ。
「今、桐谷麻梨に全てを話したら…死んでやるんだから…」
包丁の切っ先に血がプツンと滲む。
「わかった…もうわかったから…」
真剣に僕を見つめる麻梨さんと、安堵の表情を浮かべる女。
「真白さん…ご自身の心を大切にしてください。無理はいけません。私もそれを望んでません…」
「麻梨さん…怖い、怖いんです…」
「大丈夫…きっと大丈夫…」
そっと僕のそばに来て麻梨さんは抱きしめてくれた。
「怖い…怖いの…」
自然と涙があふれる。
「いいんです…いくらでも泣いていいんです。沢山泣いても、私は真白さんを嫌いになんてなりませんから」
「うわ…ああ…」
「大丈夫です…真白さんの周りには何もいませんよ…私だけです。貴女を大切に思っている私だけがいるんですから…」
その言葉にハッとする。全てがバレている?女は死ぬ?麻梨さんも?パニックになる。呼吸が荒くなる。
「落ち着いてください…怖くないから…沢山傷ついたんですね…辛かったんですね…」
子供をあやすように抱きしめながら背中をぽんぽんと優しく触ってくれた。
「もう嫌…一人にして…」
心からの声が外に出てしまった。
「一人になんてしません…そばにいます」
そう言うと麻梨さんはさらに激しく抱きしめてくれた。
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