第38話 蓋をする

女の作戦は成功だった。

僕に罪悪感の種を残した。

麻梨さんと同じ顔で同じ声で同じ素肌で憂いを帯びたのが許せなかった。

自ら追い出したくせに、女を引き止める為に呼び出した。

「まだいるんだろ!出てこいよ!」

反応はない。また電柱の所に現れるだろうか。

慌ててドアを開け自販機に向かおうとしたがが、目の前に私服姿の麻梨さんが立っていた。


「わっ…びっくりした。よくわかりましたね」

ハンバーグを手に持ちながら麻梨さんが、ちょうどやってきた。

一瞬モヤモヤとした感情が芽生えたが、現実の出来事に喜びを覚える。

「驚かせてすみません…どうぞ中に」

麻梨さんを招き入れた。


「今回のハンバーグは自信作です!」

肉肉しいハンバーグが皿に並ぶ。

僕はどこか上の空だった。

「…どうかされましたか?」

「いやっ…何もありませんよ。いただきます」

目の前の麻梨さんに集中しつつ、一口頬張る。

柔らかでジューシーなハンバーグはどこか懐かしくもあり、新鮮な美味を感じた。

「美味しいです…凄く!」

麻梨さんは照れくさそうに笑いお互いに頬張った。


名残惜しいが最後の一口を食べる。

「ご馳走様です…美味しかった…」

「真白さん…元気は出ましたか?」

麻梨さんが僕の顔色をうかがう。

「あ…う…」

言葉にできなかった。ハンバーグのおかげで元気になりましたよとか、実は幻聴が辛くてアハハとか言えればよかったが、目の前にすると何も言えなかった。

「何も言わなくてもいいんです…ただ、少しでもお話して楽になれるなら…」

澄んだ瞳で麻梨さんは僕を見つめる。


「実は…」

「しー?」

麻梨さんの背後に、指を唇に当てて話すなと女がジェスチャーしていた。


「少し辛い事があったけど…ハンバーグで元気が出ましたから…」

「そうですか…でも元気になってくれてよかった。」

少し悲しげに麻梨さんは微笑む。

その後ろでひらひらと舞い踊る楽しそうな女がいた。

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