第37話 見上げる

そうだ、その前に…この家にはアルコールか水道水しかない。

何か用意しなければと近くの自販機に急いだ。

冷たいお茶を二本、購入ボタンを押し、取り出そうとしゃがむ。

起き上がる前に、ふと視線を感じる。

少し離れた所にある電柱に、白いワンピースが揺れ隠れし、裸足の片方が見えた。

顔を少しだけ覗かせた夢の女には怒りの表情が刻まれていた。


僕は取り出そうとした体制のまま動けずにいた。

女は果たして近づいてくるのだろうか。

また僕に罵声を浴びせてくるのだろうか。

汗が頬を流れる。


「すいません」

後ろから声をかけられる。

財布を手にした誰かが立っていた。何か飲み物を買いに来たのだろう。

「ああ、すいません。今どきます」

急いでお茶を取り出し家へ戻る。

去り際、電柱の方を見ると女は悲しげな顔をしていた…


玄関のドアを開けると、先程の女が座り込んでいた。

「おかえり」

今も悲しげな表情で僕を見上げる。

「ハンバーグが好きなのね…」

「…」

「今から桐谷麻梨と楽しげに食べるのかしら?お互いの事を何も知らないのに…」

「…」

「どうする?桐谷麻梨本人も私のような人間だったら?」

「…」

「ふふ、大変よねえ?」

「消えてくれないか」

女は唇をギリリと噛み俯いた。

「ふん…そうね。押して駄目なら引いてみろって言うしね…言ったら意味ないかしら」

女は立ち上がり、力強く抱きついてきた。

「楽しい夕食を」

女は消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る