第36話 空腹

「真白さん、少しずつ落ち着きましょうね、ご飯はもう食べましたか?」

彼女は冷静に話を進めていく。

混乱が落ち着き、彼女の言葉で空腹を思い出す。

「いえ…食べてないです」

「それなら美味しい物食べて元気出しましょう!せっかくだから何か作りましょうか?」

そう言われ、あの日のお粥を思い出す。

コンビニとは違い、暖かで優しい味…

そして…作ってくれるのは彼女…いえ、麻梨さん。


「麻梨さんの作ったご飯が食べたいです」

「嬉しい…麻梨って呼んでくれましたね」

少し瞳を潤ませて麻梨さんは続けた。

「よし!何でも作っちゃうぞー!好きな物を言ってください!」

「なんでも…」

薬やアルコールで胃は乱れていたが、久しぶりの健康的な空腹が襲った。

「あの…」

「どうされました真白さん?」

「…が食べたい」

「何をですか?」

「えっと…」

「なんでもいいですよ!」

恥ずかしさと食欲が混ざり合い食欲が勝った。


「ハンバーグが食べたいです」


そう言うと彼女は吹き出した。

「ハンバーグ!か、可愛いです!」

馬鹿にされたようで少しムッとする。

「くふっ!違います!煮魚とか筑前煮とかを言われると思ったのに…」

「煮魚も筑前煮も好きですが?」

「それでは煮魚にしますか?」

「…ハンバーグがいいです」

麻梨さんの笑いは止まらなかった。

「あっ…でも今からハンバーグを作るのは時間がかかりますよね…他の物にしましょうか」

「大丈夫ですよ!この前家で作った時タネを冷凍しておいたので焼くだけです!」

図々しさと子供臭さに恥ずかしさが止まらなかった。

「そうなんですね…それではせめて僕が焼いてソースを作ります」

「いえいえ!やるのが好きなのでまかせてください!ソースはケチャップ派?デミグラスソース派ですか?」

「できればケチャップ…」

「くふふっ!急いで作ります!」

麻梨さんは自分の部屋に戻っていった。


麻梨さんが去っていった部屋で一人考えに耽っていた。

何故こんなにも優しくしてくれるのだろう。そして心地良いのだろう。

不健康だったり、情緒不安定で薬やアルコールにも逃げる、不気味な容姿に、僕言葉…普通なら避けるはず。


怖いが…今日聞いてみよう。

心地良く過ごすのも楽しいが、麻梨さんといる事で女が夢に現れるのかもしれないし…僕も覚悟しなければいけないからだ。

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