第35話 清らかさ
随分と待って、念願の着信音が鳴った。
『今すぐ向かいます』
その返信を見て、安心して涙が出てきた。
世界中で、自分の言う事を聞いてくれる存在がいるのは幸せだろう。
だけど、安定剤とアルコールでふらふらの今の自分を見られるのは恥ずかしかった。
慌てて水道水をがぶ飲みしても意味がない事を悟った。
『何かいるものはありますか?』
その返信を見てすぐラインを打つ。
『何もいりません…貴女が来てくれれば…』
恥などとうに捨てていた。
この孤独と幻想にまみれたこの部屋を変えてくれるなら、誰でも良かったかもしれない…
そこまでは伝えるのは憚れたが…
しばらく泣き腫らしながら待っていると玄関のチャイムが鳴る。
重いドアを開けると彼女が立っていた。
たまらず彼女の腕をひいて部屋に招き入れる。
「どうかされましたか?!」
心配そうに見つめる彼女を強く抱きしめて囁いた。
「一人にしないで…」
震える体で抱きしめ続けると、彼女は優しく頭を撫でてくれた。
「一人じゃありませんよ…」
その優しさに触れ、すべてを話しそうになるが僕の異常性を知られたくなかった。
「怖いんだ…」
僕も襲う現象も僕自身の人生も…
「大丈夫です」
彼女から優しくキスをしてくれた。
「桐谷さん…」
「麻梨と呼んでください…真白さん」
再度優しいキスが頬に触れる。
「私がいるから大丈夫です、真白さん」
何が大丈夫なんだと叫びたい気持ちと安心感の両方が心を包む。
「助けて…」
泣きじゃくり彼女の腕に体にしがみつく。
「真白さん…」
きっと僕の異常性や脆さを知られれば彼女は離れていくだろう。
それまでは、女と違い清らかな関係を彼女と続けたいと思うのは…ワガママだろうか…
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