第33話 自覚

それから、どれだけ抱き合っただろう。

目と目があうと、必然と口づけた。

解きほぐすように、全てを許すように何度も口づけた。

時には互いの呼吸を奪うかのように激しく求め合った。


「真白…愛しているわ」

直接的なその言動に、その愛撫に心身が震えた。

わかっているんだ、これは白昼夢だって事は。

これは自慰行為だってことも。

自らを正当化するみたいに、異常性などないように、目の前の女を正当化した。

「真白…」

潤んだ瞳で舌を突き出す女に答えるように僕も舌を突き出し絡めた。


飽きるまで口づけた後、恐る恐る女の胸に手を伸ばした。

これが現実かどうかの確認も込めて、力を込めてその膨らみを掴む。

「あっ…痛いわ…駄目よ…」

女は艶かしく拒絶する。

まるで現実だ…目の前には女がいる。

白いワンピースから覗くすらりとした足を触り、徐々に上へと触れていく。

「あっ…駄目よ、真白…」


「お隣さんに聞こえちゃうわ」

女はクスクスと笑う。

その下衆な一言で我に帰った。

意識がハッキリすると女の姿はなく、だが確かに手にした包丁は元の場所に戻っていた。


「なんなんだよ…」

この状況で頼る人なんておらず、ただただ精神安定剤に救いを求めた。

「何が起きてるんだよ…」

呟きながら本当はわかっていた。ただの願望、欲望なのだと。

都合のいい性処理の相手と自殺をタイミングよく止めてくれる存在?なんて都合がいいんだろう。笑えてくる。


『壊れてるのだから、これ以上おかしくなってもいいんじゃ』

心の声がざわつく。

『都合がいいように、楽しめばいい』

ガンガンと頭が痛む。

『現実の麻梨も夢の女も楽しめばいい』

そうざわついてからは、ひたすらにアルコールを流し込み思考を停止させた。

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