第30話 痴態
「熱も下がってきましたし…それでは失礼しますね」
彼女が去った後、コトンと鍵が落ちる音が響いた。
名残惜しいが、一晩居座るのも申し訳ないという事で去って行った。
玄関の鍵を閉めた後はポストに鍵を落としていった。
しんと静まりかえった部屋で考える。
泣いた彼女を見るのが辛すぎて、僕の醜い部分を話してしまった。
なのに…彼女はすんなり受け入れてしまった。
まだ言えない事は沢山あるのに…
先程のように浮かんだ言葉を飲み込むように、彼女には見せなかった薬の数々をポカリスエットで飲み込み、再度眠りについた。
「真白…起きて?」
椅子の背に手を回され手錠をかけられた状態で目が覚めた。
目の前には白のワンピースを着た桐谷麻梨が立っていた。
「真白はこういう趣味なのね…まあいいわ。これなら桐谷麻梨とは間違えないでしょ?」
ああ…夢の女か。女は悪戯に顔を近づける。
「この姿で毎晩現れるわ。だって真白は私のモノだもの」
噛みつく真似をしながら女は笑った。
「まずその姿をやめてくれないか…彼女と見間違う」
「それは無理だわ。これが貴女の欲望だもの。それとも何か名前でもつける?ペットみたいに!」
ケラケラと自分が言った事に笑う女。
「ペットみたいにか…気持ち悪い…お前は女だ。ただの女でいい。その呼び名で十分だ」
さらに女の笑い声は大きくなる。
「女?!ははっ!まさにその通りね!貴女は女を貪るだけの為に私と寝るものね!」
女はスカートを捲り僕に被せる。
「何するんだ!!」
「いいのよ…欲望のままに私を好きにすればいいわ。貴女のまま…まるで男のように?それとも男として?女として?」
僕は言葉に詰まった。
「納得なんてしてないんじゃない?貴女が何者かを…だけど、貴女が男か女かなんて問題ではないの。あるがままを私は愛し求めるわ」
「だからいいの…私で欲を満たして?桐谷麻梨にはできないような事も…」
僕は露わになった女の足に何度も口付け舌でなぞった。常識では身につけている布を、纏わずにいる女の敏感な場所にも…
その度に小さな嬌声をあげる女は明らかにこの状況を楽しんでるかのように時折小さい笑い声をあげた。
「ふふふ…楽しそうね、真白…?」
笑われた事に対して屈辱感も何もかもなかった。
「さっきまで桐谷麻梨との甘い時間を過ごしてたのに…清らかに頬にキスだなんて…ふふ。今の貴女を見たら、おままごとみたいなものよね」
彼女との触れ合いを馬鹿にされたというのに、僕の頭の中は一つの事に支配されて息がどんどんと上がっていった。
「あら…苦しそうね?何かお願いしたい事があるのかしら?」
「わかってるくせに…」
「ちゃんとお願いしなさい?」
恥ずかしさと快感に震えながらいった。
「お願いします…手錠を外してください…」
「よく言えました」
女は椅子の後ろに回り、手錠を外す。
外されたのを確認した僕は、すぐさま女を強く抱きしめ欲望をぶつけた。女は勝ち誇ったかのように終始笑みを浮かべていた。
「桐谷麻梨と恋仲になったって…私が一番真白を理解しているし愛してるわ…」
欲望を全て吐き出し、意識が遠のく時、女の感情がこもった声が聞こえたような気がした…
「桐谷麻梨との関係…うまくなんていかないわ…ウマクナンテネ?」
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