第27話 逃避
朝が訪れていた。
唇には優しい名残り。
掌には柔らかで、かつ激しい鼓動の脈打つ様が残っていた。
はたしてあれは夢だったのか。
桐谷麻梨を否定する女は、その容姿に頼り僕を誘惑した。
イマジナリーフレンド。
幼き子が遊び相手や理解者を作るように、成人後も訪れる場合があり、恋人に発展する場合もある。
書物で流し読みをした事はあるが、自分に訪れるとは思わなかった。
または、自らの知識と欲望で誤ったイメージが作ったのか。
感じた事のない衝動。
獣のように貪った、女の体には花が咲くように跡が残った。
時折、視線が交わると恥ずかしげに視線を逸らす女をずっと眺めていた。
女はそれを包み込むように笑みを浮かべていた。
あんなにも悩んでいた幻聴や彼女への告白への返答もどうでもよく、女が笑う方法を、嬌声をあげる場所を探っていた。
手を上げ、空を掴み、思いに耽り、結論を出した。
「このまま溺れたくない」
焦がれた想いを塞ぐ事を決め、幻想や現実に溺れそうな自分を拒絶した。
『桐谷さん、よき隣人でいましょう』
ただ、それだけをラインで送り、和やかな日々を閉じた。
告白の真偽も問わずに。
いいんだ。ゴミ捨て場で挨拶をしたり、玄関先ですれ違うだけの日々。それだけで心が満たされるはず。
現実に妄想を持ち込む可能性が怖かった。
思いのまま、彼女を汚す可能性が怖かった。
きっと、妄想の女と彼女はほど遠い存在だろうけど…
言い訳は沢山思い浮かんだ。ただ、女も彼女も、この身に異物として徐々に侵食するのが怖かった。
彼女のラインをブロックし安堵した。
そして、それ以上、彼女も詮索はしなかった。
告白の返事が拒絶だったからか、ただの社交辞令からのブロックで接触を諦めたのか…
桐谷麻梨。彼女を拒絶すると、夢の女も出ては来なかった。
やはり僕の欲望が見せていた悪夢だったのだろう。
ただ、その後も惨めたらしく姿を目で追ったり、彼女との接点を求めゴミ捨て場の時間を合わせたりした。
自分でも、彼女を求めているのか拒絶しているのかわからず、日々は過ぎ…いつか夏が訪れてた…
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