第26話 秘事
「ずるいわ…ねえ…酷いわ…」
泣きじゃくる声が聞こえて目を開く。
僕の上に跨る女を見て、またこれは夢なのだと悟った。
「いい加減に桐谷さんの見た目で僕を惑わすのはやめてくれ」
泣くのをやめない女に言い放った。
「こんなのってないわ…」
ぽたぽたと涙が落ちてくる感覚が僕の頬に伝わった。
「麻梨と一緒になんてならないで!」
髪を振り乱しながら叫ぶ女。
「私の方が真白を愛してるの!」
僕の両肩を掴み揺さぶる女。
少女のようにひたすら悲しみに溺れ泣く女を見て、夢なのだからといじわるになった。
「じゃあ、彼女の告白は本当だったのか…起きたら返事をしなきゃな…」
女はニヤリと口元を歪めた。
「ふふっ…あはっ…はははっ!」
女は天井に向かって吠えるように大きく笑った。
「何がおかしいんだ?!」
その問いにメイクを滲ませながら女はニヤリとこちらを見下ろした。
「ごめんなさいね…このまましおらしくしていれば貴女が恥をかくと思ったのに…」
見下ろしたまま女は言い続ける。
「貴女が幻聴だと感じているのもの…それは私なの。貴女がいいように物を言うの。
桐谷麻梨に好かれたいという願いが私に伝わりそう言わせた…あまりにもおかしくてひと芝居うってみたけど…ははっ!やっぱりおかしい!」
「じゃあ、今日彼女が告白してきたのは…」
「そういう事!私の声!幻聴よ!全てが貴女の願望が言わせた言葉!ねえ、こういう言葉を知らない?イマジナリーフレンド…」
「イマジナリー…フレンド…」
「貴女の願望が私を作り、従わせ、欲望を満たすの…」
「だが、成人後のイマジナリーフレンドの場合、解離性障害に関係する事が多いが、精神科での診断結果は違っていたはず…」
「世界人口は七十七億人いるのよ。それぞれにあった症状があると思うわ。それに、どんな事でもいいの。貴女が望み私が応えるだけ」
彼女は優しく僕の体を抱きしめた。ふわりと優しい女性らしい香りがした。
「いいのよ、これからも…貴女が喜ぶ事を言って感じる事をするわ」
すっと女は僕の頬を撫で首筋を撫で胸を腰を…
「やめてくれ!」
「あら…私の姫君はこういう事には初心なのね」
女はクスクスといやらしく笑う。
「でもね…正直になりなさい?目の前を見て?私はまるで桐谷麻梨でしょ?もし麻梨がいたとしたら…やる事は一つじゃない?」
女の手は質素な僕の服の下に滑り込む。
「やめてくれ…やめて!」
「あら…可愛い声も出るのね。でもね、覚えておいて?これは貴女の願望でもあるの」
「妄想にまみれて、幻聴で心を満たし、肉欲に溺れているのよ!こんな人間、私以外愛する人なんていないわ!あーはっはっ!!」
僕は魔女のような女に怯え震えていた。
「あら…怯えないで…ごめんなさいね…でもね、わかってほしいの。貴女の気持ちを満たせるのは私だって…」
女は子供に言い聞かせるように両頬を包んできた。
「感情がコントロールできずごめんなさい…」
優しく、また唇が触れ合った。
そっと綿菓子に触れるかのように僕の髪を撫で、そっと女は抱き寄せ言った。
「いつだって優しい夢が貴女を包むのを願っているわ…でも、悲しい事に、貴女の精神状態に左右される所も大きいの」
僕の唇の震えが止まるまで、何度も唇を重ねた。
「だけど、それでも貴女といたいの。夢の中…いや夢の外でだって…」
震える両手を掴んで、女は自身の胸に触れさせた。
「わかる?私が貴女をどう思っているかを」
女の鼓動は夢だというのに激しく脈打っていた。
「嬉しい…感じる?もっと触れてほしい…」
「お願い」
僕はその潤んだ瞳に溺れた。
肌のその先も奥深くさえも透けそうな白い肌に触れ、夢なのだからと欲望を満たした。
「真白…嬉しい…」
僕の欲望に弄ばれているだけの存在だというのに、彼女は何度も何度も僕の名前を囁いた。
「もっと…きて?」
僕は夢の中で女を何度も汚した…そう、何度も汚した…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます