第42話 竜人
翌日からすぐに修行は開始された
といっても、瞑想をするのだが……場所が……
切り立った崖の様になってる場所で胡坐をかいて瞑想するのだ
「怖い……単純に怖い」
「ここで瞑想をするのじゃ。己の内にある力を感じるのじゃ」
もう涙目である。ヒュンってなる。足はガタガタ震え、下を見ようものなら漏れる
雲で見えない先に何があるのか考えるだけで意識が飛ぶ
「お……おじっちゃ……むり……」
「……ふむ……気を失ったかの……」
それからは、その場所に行くことから始めた
少しづつ、少しづつ……その崖に行けるようになり、その場所で胡坐をかけるようになったのは1か月後だった
「やっと座れた……」
「うむ。よく頑張ったのじゃ。これからはそこで少しでも瞑想をするようにして行くのじゃ」
「みゃん」
ずっと、来る日も来る日もミャムは僕の側から離れず、いつでもそこに居てくれた
それだけで心強かった。振り返ればいつでもそこに居て、見守っていてくれる
その日から瞑想を始めた
数秒、数十秒、数分……少しづつ時間が伸びていくようになると、自分の内にある温かいモノを感じるようになってきた
どこかで感じたことがある様な、自分の力であるような、誰かの物である様な……
多分、ティアーナ様の物だろう
最近会いに行っていないな……そんな雑念が出始まると、自分が思いのほか慣れてしまっている事に気が付く
慣れとは恐ろしいものだ。気絶するほど怖がっていた場所なのに、そこに慣れてしまうと余計なことを考えるようになる
雑念を振り払い、自分の中にあるその温かい力を感じてみる
温かい。只々温かいその力は、僕の中にあるのに異質で、異質なのに拒否反応が無く、その隣にある、恐らくこれが僕本来の力なのだろう物に寄り添っている
決して混ざることなくそこにある。ミャムみたいだ
ふと振り返ると、飽きることなく僕を見つめているミャムと目が合う
「ミャム。大丈夫?ミャムは寒くない?」
「みゃん♪」
「いつもありがとう」
「んみゃん♪」
感謝の言葉は伝わりづらいものだ。言葉にして話さなければ伝わらない
悪意は直ぐに伝わる。善意は伝わりにくい。いつでもどこでもそうだ
ティアーナ様にも伝えなければいけないなぁ
少しづつ温かい力を自分の力に混ぜていく。何故かそうすべきだと思ったからだ
自分の力に違和感なく混ざっていくその温かい力は、僕の力を大きくしていく
その後、青い光になって外に出ると、そこにまた集まり寄り添うように溜まっていく
少しづつ、少しづつ……時間をかけて、混ぜては馴染ませてを繰り返していく
全て混ざり切るとそこにはヒスイ色に輝く自分の力と、どこまでも青く澄んだティアーナ様の力があった
目を伝う熱いものに気が付き、目を開ける
いつでも、誰かが側にいてくれたんだ
いつでも、誰かが見守ってくれていたんだ
だから
本当に腹をくくらなきゃいけないんだ。こんな事で足を止めていたらいけないんだ
「ミャム!行こう!」
「ええ行きましょう!」
僕は全身に力を込める。体が変異していく
背中から羽が生え、長くしなやかで鋭い尾が生え、足は竜の逆関節に、体は硬い鱗が覆い、首は伸び、顔は竜に、額にはティアーナ様の紋様、竜の角は前に伸び、魔族の角は後ろに伸び、手は人のそれのまま鋭くなり、僕は二足で立つヒスイ色の竜人になっていた
空に飛びあがると、ミャムと一緒に空を駆ける……あれ!?
「ミャム!?喋れるの!?」
「え!?言ってることが解るの!?」
「「え!?」」
「解るようになったみたいだ」
「そう……これからは話せるのね」
「うん。今までありがとう。ずっと見守っててくれて」
「えぇ。当然よ。あなたの妻なんだからね」
「そうだね。うんそうだ。ミャムも僕の奥さんだ」
「えぇ」
僕たちはしばらくの間、二人で空を駆けていた……
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