第39話 帰宅から……

滞在期間を終え、僕たちは氷精族に別れを告げた

皆、泣きながら見送ってくれたのは嬉しかった。暖かく、心強い、素晴らしい人たちに出会えたことは、これも幸せだろう


一旦、ボルトワの街まで帰り、商人に話を持っていく

季節が厳しくなるから、来月に顔合わせをして、春先からの取引にすると決めた

試しに凍らせたままの魚介類を持って来てみたが、ボルトワの街に着いても凍ったままだった。これならば間違いなく、新鮮なまま運べるはず。後は商人に任せよう


父上と母上に事のあらましを伝えると、それはそれは喜んでくれた

それと、今後の予定として、来春から工兵の選出と出動、偵察に妖精族を一部派遣して、交代制の出張をお願いする

ナタリーさんはあの大地でも顔色変えず過ごしていた。恐らく環境の変化にも適応できるほど、あの風の防護は凄いのだろう


それと……


「父上、母上、もう一つご報告がありまして……」


「あら?何かしら?」


「うむ、話してみろ」


「女王陛下、リザさんに続き、ここにいるシーナさん、ミーナさん、ナタリーさん、シゼラさんとも……結婚する約束をいたしました」


「う……む」


「わかりました。異存はありませんから認めましょう。ただし、シーナとミーナは解っているでしょうから問いませんが、ナタリーさん、シゼラさん。女王陛下が第一夫人であることに異議はありますか?」


「「そんな!滅相もない!」」


「ならばよろしいでしょう」


覚悟さえ決めてしまえば案外、どうにでもなるものなのかもしれない


「コグトスよ……羨ましいぞ……」


「あなた。後でお話があります」


「はい……すいませんでした」


安定の父上だ。それでも母上との仲はすこぶる良好なのだから問題はないだろう

この話は、一つの問題を除き、解決したのかな……


「話は変わりますが、父上。来春に人鱗族の元に同行してもらえませんか?」


「ふむ?何故か聞いてもいいか?」


「はい。やはり人鱗族・人狼族とはしっかりとした協力関係が必要だと思うのです。最初の会談ではやはり代表人物全員で話し合う必要があると思います。その後の代理としてなら僕でも問題ないと思いますが……」


これは帰りの馬車で皆と話し合った結果だ。

初手から「代理できましたー」なんて失礼な話じゃないか?という疑問からこの話を持ち掛けたところ、満場一致で父上に同行してもらおうと決まった


「ふむ。まぁ……そうなるだろうとは思っていた。成長したな息子よ。しかしな……俺は人鱗族から嫌われている」


「え?なんで??」


「コグトスちゃん。それは私が関わっていると言えばわかるかしら?」


母上……あ!


「竜族の伴侶だから……?」


「そうだ。彼らは竜族を信仰しているのだが……その夫が魔族であるという事に殊更不快感があるらしい」


「そうね……今でも抗議の手紙が来るほどには……」


えー……でもそれって


「それじゃぁ……僕でもダメじゃないですか?竜族じゃないお嫁さん候補が4人も居ますし」


「うむ……それについても相手がどう出るかわからないのだ」


まさかそんな事になっているとは……母上がいるから関係は良好、すんなりいけるなんて楽観視していた

でもよく考えれば解ったはずなのだ。そんなに簡単にいくなら、もう既に協力関係が出来上がっていて然るべきであり、今更話し合いをするような事は無い


「難しい問題なんですね……」


「それにな、ボルトワはガンガから応援が来るようになっている。お前にどう見えたかはわからんが、ガンガの者たちは強いぞ。ホーグムのニーシャさんだってシフォニアの妹君だ。その力は絶大だろう」


「それは解っていますが……僕が懸念しているのはボルトワではないんです。人鱗族の方なんです」


「ふむ……?」


「憶測でしかありませんが……人族内での紛争は恐らく、南側の覇権を取りたいがための紛争だと思うのです。資源がないから争い、争うから資源が枯渇していくのです。人族側、北の大地に居る者たちが少しでも自分の暮らしを裕福にしたいと思うなら南に侵攻するしかありません。氷精族に大敗を喫した過去がありますし……」


「……続けろ」


「はい。氷精族の恐ろしさはこの目で見て来たので解ります。あそこにもう一度侵攻をかけるような真似は絶対しないでしょう。旨味も少ない上に場合によっては国が滅びます。それなら先ず南側に侵攻して掌握したら、次はそこからこちらに仕掛けてくると思うのです」


「それは、北にいる者たちが南側に勝てる、という前提の話ではないか?どうなるかは解らないと思うが?」


「北が勝てなくても、今度は侵攻された側の資源問題に発展します。戦勝国が南だったとしても、同じく北に旨味は無いので人を奴隷として兵にし、戦争で疲弊した資源を求めてこちらに……どちらにしても南なのは明白と思われるのです。もしくはこの中央。賊が来ているという事はその可能性も少なからずあると思います」


「資源……か」


「ですからそれまでに協力関係を築き、中央から南の防衛を一緒に行いたいのです」


「なるほど。わかった。それならば……」


その時ドアがノックされセバスさんが来た


「ご歓談中申し訳ありません。お客様が参られました」


「客?今日はそんな予定なかったはずだが……」


セバスさんの後ろから、まさに威風堂々といったご老人と、歳を取っているにも関わらず美しさと気品に満ちた老婆が現れた


「ガルドよ息災か?」


「シフォニア。なかなか顔を見せに来ませんね。何かあったのですか?」


「お父様お母様、ご無沙汰していて申し訳ありません。出産に育児にと右往左往していたもので」


「そうであったな。シェルティアから聞き及んでおる。して、孫は」


「はじめまして。ガルドとシフォニアの息子でコグトスと申します」


「そう硬くならずともよい。お前のおじいちゃんなのだぞ?」


「そうね。私は貴方のおばあちゃんよ?」




急な訪問はおじいちゃんとおばあちゃんの登場だった……


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