第38話 過剰戦力

数日程滞在させてもらい、話を詰めていく事にした。

こちらもただ避難するだけじゃなく、砦に近い場所に居を構え、交代制で防衛の協力を確約した

それまでの間、行商人と一緒に工兵などをこちらに寄越し、できる限りの事はしておくつもりだ



「おーい。ボルトワの。今日は狩りにでも行くべさ」


僕はモッズさんと仲良くなっていた。めっちゃいい人

モアさん達氷精族の女性とシーナさん達も仲良くなり、今は料理を教えてもらったり、それぞれの話をしている。これから色々とこの村に来るであろう種族を、もっと知っておかなければいけないという名目でだ


「狩りですか。魔猪ですかね?」


「んだ。貯えにもなるべ」


「おぼっちゃま。シーナもご一緒してよろしいですか?」


「私も行く」


「ということで3人ですけど大丈夫ですか?」


「おぅ!かまねぇかまねぇ!」


モッズさんを先頭に3人で付いて行く

相変わらずの高速雪掻きだ……


「シーナも氷を使いますから、何か覚えられるかと思いましたが……あの雪掻きは覚えられそうにありませんね」


わっしゃわっしゃと雪を掻いているのは魔技なんかじゃなく、単純に氷精族の慣れと腕力によるものだ


「ほれ、あそこ。あそこの木の茂ってるとこらに魔猪がみえんべ?」


みえねーよ……と思わず言いたくなるくらい遠くの森の茂みを指さして「みえんべ?」と聞いてくる


「んでな……こうすんだ」


モッズさんがそのまま指に力を込めたのが解る。が!


「ほれ、これで仕留めたんべな!一発だで!」


ほくほく顔のモッズさん……


「わかんねーよ!」


思わず叫んでしまった……


「あんれ?わがんねが?」


「シーナさんどう?何かわかる?」


「…………わかりかねます……」


「とりあえず行ってみる。行けば何かわかる」


僕たちはモッズさんが仕留めたという魔猪の元まで向かう……






そこには、2メートル位はあるだろうか?魔猪が眉間から血を流し倒れていた……


「えー…………なにこれ」


「仕留めた魔猪だんべよー」


笑いながら「おもしれーこと言うなー」と腹を抱えるモッズさん


「氷……ですかね?僅かに額が濡れているように見えます……固くした鋭い氷を眉間をねらって飛ばした……のでしょうか?」


「んだんだ!」


近くにある岩にモッズさんが撃つと、岩が抉れる。それを間髪入れず何発も打ち込むと岩が粉々になる。飛ばしてる物の大きさは自由自在みたいだ

要するに、無反動で高速連射できる対物ライフル、消音機能付きで弾無制限。目視で1キロ近くを狙い打った……しかも指先から出るから遠近両用……̪

こんな人が100人も居ればそりゃ勝てる国なんかある訳がない。大軍だって見かけた傍から狙わずに撃ち込み続けるだけでミンチが出来上がる


「怖い……喧嘩にもならない」


「えぇ……姉に同意です」


「これって、男性だけですか?女性は?」


「女達のは爆発するだ。ぽーんと飛んでってドカンとしたら氷の欠片が飛び散るべや。ありゃ痛いんだー。喧嘩すっとぶつけてくんだ……」


グレネードランチャーですかそうですか……痛いで済むかそんなもん!

なんなんだこの人たち!明らかに過剰戦力じゃないか!長閑な村かと思えば、戦闘に関しては近未来もいいとこだぞ!田舎のじっちゃんばっちゃんがモデルガンのアサルトライフル構えて山猿追いかけてる例の場所みたいだぞ!いやそれ以上か!実物だしな!


「えっと……そろそろこれ持ち帰りましょうか」


「んだな!」


モッズさんは魔猪を氷漬けにして担いでいく……素の身体能力まで……

村に戻って、モアさんに例のグレネードランチャーを見せてもらえないか話を持ち掛けると、二つ返事で了承してくれた

ポーンと野球ボール大の氷球が飛んでドカンと爆発して氷が飛び散った……聞いてた通りだ

地面が直径4メートル位抉れて、辺りに破片が飛び散ると、上空に上がった破片は空気中の水分を更に吸い、小型のナイフ位に成長すると降り注ぎ、地表に飛び散った破片はスパイクを作り出している。二次、三次被害まで起きるわけだ

もうこの人たちだけでいいんじゃないかな?


「「「「「………………」」」」」


「どうですかぁ?こんな感じですよぉ」


「「「「「あ、はい」」」」」






僕たちは……パンドラの匣を開いたのかもしれない……








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