第37話 氷精族という人たち


程なくして、氷精族の村に着いた

茅葺き屋根の風情ある村。あちらこちらで氷精族の方が雪掻きしていて、こちらに気が付くと皆こちらに手を振ってくれる


「おーい!モッズどーん!そらぁお客さんだべかー?」


「んだ!わんざわんざ南からここに用があるって来てくれたんだべさー」


僕は馬車から顔を出した


「あ、どうも作業中すみません!お邪魔します!」


「おーう!村長さ呼んでけれー!」《おう!村長を呼んでくれー!》


「こっりゃてぇへんだ!ほんとにお客さんがきたどー!」


わらわらと氷精族が集まってくる


「すみませんねー。うちの村にお客さんなんて滅多な事来ませんでー。寒いしねぇー」


「いえいえ風情があって素敵だと思いますよ?」


「あらあらあらー。嬉しい事言ってくれますねー」


見た目怖いけどホントに心は温かいんだねー




一際毛がふさふさした、牙が片方、中ほどから折れている方が近づいてきた

傷がある部分が剥げており、歴戦の風貌と行った所か


「こんりゃまぁ!魔族の方でねぇか?角が4本あらぁ!下の2本は……こりゃ竜族の方でねか!?」


「はい、父は魔族、母が竜族です。ボルトワの領地を任されております」


「そうかそうか!あの大山から飛んでぐ姿さ、一度見かけたことがあんべよ!おんなじ角してたなー」


きっとおじいちゃんかおばあちゃんだ


「多分、おじいちゃんかおばあちゃんだと思います。まだ僕は竜になる事が出来ないのでお会いしたことが無く……」


「そうか……わりこと言っちまったな……でもまだ若ぇんだ!すぐに会えるべよ!」


僕の背中をバシバシ叩いてくる。痛いけど、なんか温かい


「そいで、そっちの別嬪さん方は……あれか?おめぇさんの嫁さんか?」


肘でウリウリしてくる


「「「「はいっ!!」」」」


「その予定といいますか、まだ成人してませんので確約はできませんが、そのつもりでいます」


「そうか!若ぇのにやんなー!おめぇさん!ぉん?シゼラもいんでねか?」


「ボッゾさんこんにちは。この人はウチのご主人様なんですよ。お仕えしてます」


「ほぉー!そうかそうか!おぉ!そうじゃった!儂ゃボッゾでここの村長なんかやっとります」


「僕はコグトスと言います。ボルトワ領主の息子で、今回お願いがあって来ました」


「んだば、さみぃかんな。家さ入るべな。モッズ、モア、飯さこさえて宴会じゃ!」


「はぃよー。鍋でいかんべ?」


「んだな。あったけぇのがよかんべな」


んー……鍋。楽しみだなぁ……




村長さんの御屋敷に招かれて座る

大きいお屋敷だけど、30人位が詰め寄るとさすがに狭い

でもなんかこういうのもホッとする

後40人程、氷精族は居るみたいだけど、離れた場所に砦を築いてそこに居るらしい

人族の襲撃があった事で、前線を作り、そことこの村で寄り合ってるみたいだ



「さぁさ!鍋ができたよー!」


女性達が皆総出で食事の支度をしてくれた。

氷精族の女性は皆少し小柄で、120センチ位だろうか?それでもパワフルだ

土間でちょこちょこ動き回りながら、食事の支度をしていた


「そいで、おら達に頼みってーなぁ、なんだべか?」


「はい、万万が一、ボルトワ領が落ちたときの、民の避難先を提供していただけないかと思いまして……」


「ん?戦争でもおっぱじめるのか?」


「いえ、父上は専守防衛を貫いております。しかし、これからどうなるかは分かりません。散発的な賊の被害に止まっていますが……もしもの時に備えて」


「うーむ……」


簡単にいくわけないか……


「いや、来ることはかまねぇだ。しかし、家を作ったり場所を作ったりってーのは……今のおら達には人手が足りねぇ……そこらの、それこそのっぱらにでも泊まれっちゅー訳にもいかねーべ?」


「あ、受け入れていただけるのでしたら、こちらで何とかします。場所だけでも選定してもらえれば」


「場所はおめー……どこでも構わね。そこらじゅう雪だらけで誰も来ねから、いっぱい余ってっど?」


がははははと皆が笑う


「そうですか。それなら了承して頂ければ、後はこちらで考えます」


「おう!かまねぇぞ!」


良かった……これで避難先はできた


「そういえば……街道は整備してるんですか?」


「んだ。街道くらい通れるようにせにゃ、だーれも来てくれねべ?こっちは行けねかんなー。そんでも、雪道は辛いべ?……来てくれる人なんていねぇ」


「行商……とか」


「わはは!そんなもん来るわけあんめ!」


それはなんというか……ん?待てよ?


「街道を雪掻きしてましたけど、ここから、僕たちが遭難した場所までどれくらいで来れますか?」


「そうねぇー……1時間程?でしょうかねー……ねぇ?お兄様」


「んだな。それくらいでいけんべな」


「では、その辺りに小屋でも建てて、そこまで行商人に来てもらい、そこで取引なんていかがですか?」


「んだども、取引なんて言ってもなぁ……物も大したもんなかよ……」


「凍らせて鮮魚類を運んだって聞いてますが……この鍋に使われてる様な食材を凍らせて持たせれば、行商の人も喜ぶと思うんですよ。ボルトワでもなかなかここまでの物は食べれませんし」


「そうなんか!んだば海行って魚取って、凍らせてもってげば、なんか交換できるか!?」


「そうです。そこで、小屋をもう少し先まで作っていただければ、交流ができますよ」


「そらええ!!なぁ!みんな!」


「後は連絡手段ですが……ここまでの行程が半月程ですから、月に一度、決まった日に来てもらうようにする。という方法で最初はいきましょうか」


「んだな。そっからはこっちでやり取りするべ!」


氷精族のみなさんが、んだんだ言い始めた。これで交流ができればもう少しお互いが近づくかもしれない



それからの氷精族は早かった。

木材を担いで、あっという間に小屋を建てて帰ってくる。

一夜城ならぬ一夜小屋だ


後は、帰り次第この話を商人の元に持っていくだけだ。新鮮な魚介類が手に入るというのは大きな価値があるだろう

それにこちらには世界に出回っていない酒もある。僕は飲めないけど、シーナさん曰く、素晴らしいという

手土産は喜んでくれた。お菓子類は珍しいらしく、どれもこれも喜んで食べてくれた


「ところで、氷精族の皆さんは、この地から出られないと聞きましたが」


「そんなことすっと死んじまうだけだ」


「え!?」


「おら達は、氷でできてる。死んだ者は皆、雪に変わる。亡骸を見たものは誰一人いね。溶けて無くなっちまうかんな。今、囲炉裏の近くにいるもんはおめぇさん達だけだべ?」


そうなのだ。皆火から離れて座っている


「なるほど……」


「だからあんまり熱いとこさ行くと、溶けちまうんだ。逆に、この寒い大地にいる限り、おら達は無尽蔵に力が出せる。不便と思ったこともあんが……難しなぁ……生きるっちゅーのは」


「……」


「ま!そんなに難しく考えてもしかたねーべ。おめぇさんのおかげで交流が出来そうだしな。そら少し見せてやるべ」


そう言ってボッゾさんは火に近づくと、少しづつ小さくなる


「「「「「え!!!!!」」」」」


「外にいくどー」


皆で慌てて外に行くと、ボッゾさんの体がみるみる元に戻る


「大丈夫なんですか!?それ!?」


「大丈夫だ。こうなるんだべな。小さくなるほどあぶねー暑さには皆近づかねぇ。まぁ……不思議なもんだな」






妖精族もまだ解決はしていない。人智を超えてる問題だからだ。氷精族もまた、それだった……






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