第36話 かるーい遭難

父上、母上、お屋敷の皆に挨拶して、僕たち一行はボルトワを出た

御者はシーナさん。今回は大きめの荷馬車だ。手土産と食料に飲料水をたくさん積んであるからね

往復で1か月弱の行程になる予定だ



ナタリーさんは体が小さいから危険か?と思われたが、体を取り巻く風が障壁になっていて快適を保てるそう。羨ましい機能だ


シゼラさんの蜘蛛の糸で隙間を塞いでいるから思いのほか寒くないのも素晴らしい

シゼラさん超々有能。野宿の場合になっても、ハンモックを作れるから地を這う虫の対策もできる。一家に一人シゼラさんの時代が来るかもしれない


寒くなると猫は暖を取りに行くものだが……我が家のミャム様は皆の暖になってくれている。ミャム様の地位は現在トップである。崇め奉られている

ただし、お腹側は僕だけの物らしく、他の人が触ろうとすると威嚇される。爪は切れ味最高らしい

畏くもミャム様におかせられましては、昨今、頓にお美しくなられ、その毛並みたるや、まるでベルベットのようであらせられますもふもふ


「みゃん♪」


おぉ!肉球でポフポフされるのもたまらんですなー……すかさずチェック!健康に異常はなさそう


「何してるの?」


「肉球チェックです。体調がここで少しわかるので」


「へー。じゃぁ人狼族の時もそれやってあげるのがいいかも」


「え?肉球あるんですか?」


「脚にあるとおもいますよ?」


ミャムが定期的にシーナさんを暖めに行く。さすができるミャムは違うなぁ

……まぁ現実逃避してないで現状を再確認しよう


現在、猛吹雪に見舞われ、街道を進んでいた我々一行は前方が全く見えない状態である

寒さに強い魔馬を連れてきたが、さすがに限界かもしれない

ここで一旦止まろう


「ここで一旦止まりましょう。シゼラさんは馬車の固定を、ミーナさんは何か料理をお願いします。僕は魔馬を外して風よけ出来る位置まで連れていきます。ナタリーさんは周辺の警戒を。シーナさんは中に。暖まってください」


それぞれが動き出してから用意を終え、馬車に集まる


「最悪、雪に埋もれる可能性がある。隙間の確保も必要」


「馬車下から穴を掘っておきましょう。何かあればここから逃げ出せます」


シーナさんが馬車の床板を外し、下から穴を掘る


「とりあえずしばらく様子見だね」


僕たちは……街道で遭難していた





外が静かになったのは翌日の昼過ぎだった

とりあえず危険は去ったようだけど安心はできない


「出発の準備を進める。時間はかかるけど仕方がない」


「そうだね。急いで魔馬にも餌を与えないとね」


魔馬の餌を抱えて外に出ると、進行方向からドドドドドドドドド!!!という大きな音が聞こえてきた……目を凝らしてみると、ものすごい勢いで雪が動いている


「雪崩だ!!!!全員逃げてーー!!!」


僕は近くで馬車の糸をほどいていたシゼラさんを掴むと、馬車から強引に引きはがした。彼女は目が悪いんだ……手を繋いでおこう


「皆逃げるんだ!急いでー!!」


僕は必死に叫んでシゼラさんの手を引いて走り出そう……と、あれ?止まってない?


「あらあらあらぁ……まぁまぁまぁ……お客さんですかぁー?」


のほほんとした声が聞こえてきた…………

声の主は真っ白な肌の真っ白な服を着た、目つきの鋭い,兎の様な耳をした少し小柄な女性だった


「こ、こんにちは……」


「あらあらまぁまぁ……こんにちはぁー」


「えっと……氷精族の方……ですか?」


「えぇえぇそうですよー。はじめましてぇー、モアと申しますぅー」


「あ、コグトスといいます……」


「それにしてもあれですわねぇ……お手手繋いで仲がいいんですねぇー。羨ましいわぁ……シゼラちゃん」


「ぽっ……今日のご飯中は……」


「あ!いえこれは……ですね。雪崩が起きたのかな……と思いまして」


にこやかにご挨拶……と行きたいところなんだけど……モアさんから10メートル位後ろだろうか……ゴリラの様な顔で下の牙が上に突き出て生えてる、ゴリゴリのマッチョ体系な全身青い毛が生えている人?が居る……


「えーっと……あちらの方?は……」


「あぁ!そうでしたそうでしたぁ。私の兄でモッズと申しますぅー。お兄様ほらご挨拶を」


どっすどっすと歩いてくるゴリマッチョ……この方もデカい……なんだろう……基本的に大きい人ばかりだなぁ……


「どうも……モッズというだ」


「あ、どうもコグトスと言います。ボルトワ領から所用でこちらに来たのですが、氷精族の住む場所にたどり着く前に遭難してしまいまして……」


「そらぁいけねぇ!はぇーとこ村さ連れてかねばな!」


「寒い所おいで下さったのに、それはまぁ大変でしたわねぇー。早く行きましょう。お兄様、雪掻きしながら戻りましょう。馬車がまだ通れませんからぁ」


「んだんだ!いそぐべなー」


あ……見た目怖いけどすっごい優しい人だー……田舎の匂いがする





前方をモッズさんがものすごい速さで雪掻きしながら、僕たちは後ろを馬車で走っている。村までは2時間ほどで着くそうだ

モアさんはシゼラさんのお友達で、今馬車で話をしている


「シゼラちゃん、お勤め先が見つかったのねぇー。よかったわぁー……今日はお祝いしなくちゃねぇー」


「モアちゃんが来てくれてよかったよー」


「で、どうなの?どこまで進んだの?デートは?お食事はした?」


「そ、そういうんじゃないのよ……ご主人様だから」


「ま!ご主人様なの?ご主人様なのね?」


……肩身が少し狭い……


「どうなんですかぁー?コグトスさん。シゼラちゃんいい子でしょー」


「えぇ……よく気が利くので助かってます……」


「ま!うふふふふー……」


「モアちゃん、そういうのじゃないのよー、お仕事のご主人様なの」


「違いますの?コグトスさん」


近い近い……迫りくるうさ耳


「ここにいる人たちは少なからず、好意を抱いてるご様子ですがぁー……違いますの?」


……まぁ……気づかなかったわけでは無いのだけども……ハッキリさせていい物かどうか……


「もうっ!しゃんとしなさいな!男の子でしょう!?俺についてこい!って言えばいいのよー。ねぇ!お兄様!」


「んだんだ!おらに着いてこい!って安心させてやらなきゃ、おんなっこは焦れるだよー」


「ほら!ね?」


ね?って……でも、いつかは覚悟決めなきゃならないもんなー


「ぼ、僕に付いて来てくれますか?」


「「「「はいっ!」」」」


「ほらー。うふふふふ♪今日はおめでたいわぁー!ごちそうね!」


「んだ!村さ帰ったら鍋でもつつくべなー!あったけーど!」




なんだか勢いに任せちゃったけど、これで良かったのかもしれないなー















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