第33話 闘技大会4
僕はその後、文官試験でいなかったリリーさんに事を伝えるため、試験会場に向かった。陛下も受験者に激励の言葉をかけるため一緒に来てくれた
これから始めるところだったので、終わってからでもいいか……と思い、会場を覗くと、体に不釣り合いな大きなペンを抱えて、机の上に立つリリーさんを見つけた
いや……どう考えても不利だし不公平だろう……試験官も止めないし
僕は虎の威を借りることにした。全力で借りていこう
「へいか……あれはダメ」
「ん?リリーか?しかしな……」
「へいか……じょうそうします!あのようなふこうへいをみすごしては、ゆうぼうなじんざいを、みすみすうしないます!」
「う、うむ……そうじゃな」
「まだ、じかんまえです。いまならまにあうので、すこしまってくれるようにいってください」
「わ、わかった」
僕は急いで炭とパンを手に入れに走った
木炭を小さくうまく削るのは難しいので、セバスさんに頼んで削ってもらい、余ったパンを手に入れて小さくちぎった
急いでいるとミャムが乗せてくれた。もふりたいけど、手が塞がっているので後でもふろう
会場に着くと陛下が止めてくれていたのでリリーさんに近づく
「リリーさん、これつかって。もくたんだから、よごれちゃうかもしれないけど……」
「陛下……よろしいのでしょうか?」
「かまわん。優秀な人材を公平に見つけなければならぬと使徒殿に諭された。他の者も使いやすいものがあれば使うがよい。不正は許さぬが、不公平は正さねばなるまい」
陛下の言葉を聞いて、自分の愛用の筆記用具や、補助器具の様なものを出すものがちらほらと出てくる
「問題ないかだけ確認する。試験官確認を」
試験官が確認して問題がなさそうだった
「リリーさんがんばって!タオルはよういしてあるから」
「ありがとうございます!」
陛下と僕が退室すると試験が開始された。それでも用紙がデカいから不利かもしれない。でも、逆に用紙が小さすぎると感じる鬼族もいる。
不公平や不利と皆が戦っている……僕も妖精族ばかりに気がとらわれていた……反省しなきゃいけない
「どうした?何か思うところがあるのかの?」
「ほかにも、ふこうへいとたたかっていたひとがいるのに、ようせいさんばかりに……てをかしちゃった」
「そうじゃのぉ……それも仕方ない事ではあるのじゃ……身近な者ほど大切になる……それに、どうしても全てを掬う事はできない。零れてしまう物まで追いかけていては、元ある物も失う……難しい話じゃな……為政者は時に、非情であらねばならぬのでな」
「うん……」
「じゃがな……それは妾達の話なのじゃ」
「え?」
「コグトス、お主は掬うことができる立場なのじゃよ。我々に無い知恵と知識がある。一人でも多くの者を掬い取れる。長く生きれる分、文明の発達が遅れているこの魔族たちの生活を、少しでも改善することができる。だから妾からお願いがあるのじゃ」
「なんでしょう?」
「もう少し大きくなって、旅ができるようになったらば……魔族国を旅し、各地の者達に手を差し伸べてほしいのじゃ。そのために、護衛を選んでいる。頼まれてくれるか?」
「……はい!」
「うむうむ。さすが妾の未来の旦那様じゃ!」
あ、はい……がんばります
無事、試験が終わった
自信がありそうな者、暗い顔の者……三者三様だけどリリーさんは明るい
「ありがとうございました。おかげさまで最後まで書き切れました!」
「よかったね!」
タオルに包んであげると、ゴシゴシと炭を落とすリリーさん
「リリー!どうだった!」
「ナタリー!最後まで書けたよ!使徒様のお陰で、筆記用具もあの大きなペンじゃなくて良くなったの!」
「そうか!我々も使徒様のおかげで新たな力を手にしたんだ!狩りもできるようになった!」
「えぇ!!ほんとに!!?」
「あぁ!!そしてな……我々妖精族をボルトワ領で雇ってくださるそうだ!」
「うぅ……」
リリーさんが泣き出してしまった
「よかったぁ……よかったよぅ……」
「あぁ……やっと安住の地を手に入れ、職も手に入りそうなんだ……これから頑張っていこう」
「うん……」
少しでも誰かを救う旅……僕もそのために頑張らなければいけないなぁ……
あ、ゴンズさん優勝したよ。おめでとう!なんか釈然としてなかったけどね
幼年期 完
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