第18話 人馬族集落へ

コロシアムから出て今日のお宿である領主の館に向かおうと話していた時


「是非とも我が集落に!!何卒!何卒ぉ!!!!」


というジョイスさんの足を畳んで座りながらの平服を目のあたりにして、ラテーテさんも若干引きながら許可を出した僕たち一行は、街を後にして集落に向かっていた

ラテーテさんとリーアさんも付いて来て、ギムさんは「デカいから来るな」「邪魔だから来るな」と散々の言われようで残った


母上達がのる馬車の前にオンタリオさんとヨグトさん、御者はトラクスさん

その前後を人馬族の皆さんが警護してくださっている

そして人馬族の皆さんは鼻息が荒い。フンスフンスとそれは興奮しておられる……


「名誉だ!我が集落に使徒様を迎え入れられるとは!しかし……リザが羨ましい……」


僕はリザさんに乗せていただいてる。ほんの少し小柄で僕でも乗れそうなのと、もともと神殿騎士を目指してるからか背に綺麗な馬具を着けて居たため乗れそうだな?と興味本位で聞いてみたら被せ気味に「よろしくおねがいしましゅ!!!」と言われた


そんなリザさん、今はグズグズと泣きながら「嬉しいです……名誉です……死んじゃいそうです……」と呟いてる


何でも、かつて何千年も前に居た使徒様は、人馬族の友の背に乗り、あらゆる困難に立ち向かい、民を救い、悪と戦ったとか、その時の話が元で人馬族は敬虔な教徒となったのだそうだ

そして使徒を乗せるという事はこの上ない名誉であり……場合によっては一族の長に……彼女の場合は教皇か枢機卿は確実だろうと……軽率だったと反省してる


「よしよし」


僕はとりあえず頭を撫でてみる


「光栄にょ極みです……」


もうグズグズ通り越してぐちゃぐちゃだよ……大人しくしてよう

隣を並走してる馬車から「うちの息子はジゴロかもしれないわ……」とか「良い匂いがしますから」とか「将来が心配でございます」とか聞こえるけど無視しよう


あ、今日はミャムも一緒に歩いている。いつもは何処かに隠れて付いて来てたり、空を飛んでたりするんだけど、人目があまりない場所だと一緒に付いてくる

ミャムはずっとご機嫌です……僕のせいです



集落にたどり着いた、少し横に長い平屋が点々とあり、その奥には広大な果樹園が広がっていた

普通の畑もあるが、規模は小さめ。そこかしこからフルーティーな香りが漂っている


「すごいかじゅえん」


「我々はほかの種族より体高がありますから。果物の収穫が高さ的に丁度良く、尚且つそれなりに高く取引できます。畑作はどうしても苦手で、その上我々は恥ずかしながら沢山食べますので……」


つまり、高く取引できる果物で、他の作物を多く交換して得るわけだ


「我々自身も果物は好物でありますから。ほうれん草やネギ、パンにチーズは食べれません」


失礼だけど馬だね……確かキャベツもダメだったはず。内臓痛が起こるんだっけ?


「おなかいたくなるやつ?」


「そうです!使徒様に我々の事を知っていただいてるとは!」


何言っても補正が効いてしまう……使徒補正は手振れ補正よりすごいかもしれない

だってブレないんだもの……人馬族


「おーい!皆の衆!使徒様が来てくださったぞ!!」


ぞろぞろと集落の入り口の広場に集まってくる、大体50人位だろうか?果樹園の方からも走ってくる人がいる

リザさんが横付けになってくれた


「こ……こんにちはコグトスです」


挨拶したら皆、平服して涙を流し始めた……もう怖いよ……


「う……うちの娘に跨がっておいでだぞ!」


「リザ……良かったわねぇ……あなたは自慢の娘よ……」


リザさんのご両親だろう方が、おいおいと泣いている

以前姉妹だと勘違いした親子がいたのだ。母親の方は頬を染めていたし、娘さんは不服そうだった……あの教訓から断定はしないことにした


「リザさんのごりょうしんですか?」


「はい……お騒がせしてすみません……」


「きょうはおせわになります」


騒がれ、祈られながら、握手を求められ……やっとのことで宿についた

宿といっても、集会場を借りることになった

僕はミャムに背をもたれさせて床に座っている。人をダメにするミャムだ……もふもふ

この集落では床に座るのが一般的で、ちゃぶ台の様な低いテーブルを囲むように座る


体が馬であるから椅子には座れないし、かといって立ったままというのも味気ないという事らしい


僕はとりあえずミャムをブラッシングしている。現実逃避だ


「使徒様はリザをお選びになったのか?」


「いえいえ。なんとなく乗ってみたかったようなのです。コグトスちゃんは馬にまだ乗ることができないので、人馬族の皆さんならばもしかしたら……と思ったのでしょう」


「し、しかしリザを労わっておいでだった……もしかするやもしれぬ」


「おぼっちゃまに他意はございません。誰でも平等にお優しい方なのです」


「うーむ……」


ミャムの毛並みはいつもよりツヤツヤだなぁ……



そんな折、集落に黒い霧が立ち込め始めた……












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