第13話 「――ようやくチームになれたってところか。」
――20XX年、7月下旬。
――合同練習、2日目。
久しぶりに朝野選手を含めての「オールオアナッシング」の練習となったが、集まった3人の空気は一度顔合わせをした事もあまり意味を成さず、美味しくなかった。
『漁夫も来なかったし、ぱっと見、敵もいなさそうだし、安置的にもこっち寄りだから、しばらくは待ちで良いと思う。――んですけど、それで良いですか?』
1つ敵部隊を倒したところで月の音が状況を整理して、次に備えた行動予測を口にした。
ここのところ、ずっと戦術指示――いわゆるオーダーをしていた癖が自然に出て、日本最高プレイヤーである朝野夕夜選手を差し置いての発言が俺の笑いを誘った。
『いや、同じ事を考えていました』
なんでも月の音はコミュニケーションを円滑にする為、配信外で朝野選手とこまめに連絡を取っているらしい。
が、効果はあまり出ていないようで、朝野選手との関係に変化があったようには見えない。
しばらく3人で周囲を警戒しているが、遠くで激しい銃声が聞こえるものの、俺らの場所は平和そのものだった。
『ちょっと暇なんだけど』
「しゃーないやん。敵いないんだから」
『しりとりしようよ』
「ヤダ。めんどい」
『何で!! やろうよ!! はい、しりとり!』
「……リアス式海岸」
『ん、じゃん!! しかも、んで終わった事よりも、ちょっと賢い感を出してきた事の方がムカつく!』
「いや、本当にめんどいって」
『もう1回! はい! しりとり!』
「……リゾット」
『まだちょっとイラッとするわ……。とんぼ』
僅かな可能性で朝野選手がしりとりに参加するかと待ってみたが、朝野選手は黙っていた。
「ぼ? ぼー……」
『あ、たぶん敵来てる!』
月の音の報告に耳を澄ませるが、俺の耳には味方の足音以外には何も聞こえなかった。
「マジ? どこ?」
『東方向』
朝野選手も足音が聞こえたのか、素早く月の音と一緒に迎撃態勢を取っていた。
『あの青い屋根の家に2人入ったのは見えた。3人目は見えてない』
『たぶん2人です。やりましょう』
戦闘のGOサインと同時に朝野選手が走り出し、月の音が続いて、まだ敵の姿が見えていない俺が最後尾を走った。
敵が2人というアドバンテージを活かし、一気に攻め込み、朝野選手が1人、俺と月の音で残りの1人を倒し、あっという間に戦闘が終わった。
「ナーイス」
『ナイス。弾ちょーだい』
「オケ。この中に入ってる。外、警戒してくる」
『そろそろ他がこっちに寄ってくるはずだから気を付けて』
『なら僕は南方向を見ます』
俺は自分が、いや月の音も同時に息を呑んだのが分かった。
朝野選手がいなかった期間で俺と月の音の成長を少しは認めてくれたのか、これまで協力的とは言えなかった朝野選手が率先して行動を起こした事が俺達にとっては、とてつもなく大きな変化だった。
――ようやくチームになれたってところか。
これを皮切りに、俺達はちゃんと3人で行動するようになり、俺は改めて朝野選手の実力を再認識する事となった。
『前の敵潰す! 屋根に1人! 投げ物で降ろして! 一番手前フォーカス! オッケ、次! ナイスダウン! 残り1人! 屋根上にいた奴、裏まわってる!』
俺なりに朝野選手の強さを分析すると、圧倒的な1対1の強さを筆頭に、クリアリングによる情報収集力と集めた情報を元にした判断力による立ち回りの良さ。
から由来する有利ポジションからの攻め。
からの前述の圧倒的な火力。
あと戦闘中にちょっと語気が強くなる癖。
なるほど。朝野選手が世界最高峰のプレイヤーである根拠が終始散見できた。
俺と月の音は常に自分の最高のプレーをしていないと朝野選手に付いて行く事ができず、ずっと綱渡りの戦闘が続いていて、いつもより負担が大きかったものの、世界最高峰の動きに付いて行く事ができれば、今後、自分自身のレベルアップに繋がると思えばこそ、アゴの感覚が無くなっていても、意地で食らいついていった。
そんな特訓期間を数日重ね、トップの動きにようやく慣れ始めた頃、いよいよ大会を明日に控えた。
「今日はこんなもんすかね」
午前2時を過ぎ、明けての激戦を見据えて俺はいつもより早めの解散を提案した。
『解散する? 私はもう少しやってから寝る』
「マジかよ。配信モンスターじゃん。朝野選手はどうしますか?」
『僕も今日はここまでにしておきます』
月の音は少しゴネていたが、俺と朝野選手が終わると決めると、コンディションの足並みも揃える為に全員が終了となり、練習最終日が終わった。
「お疲れ様でしたー。って事で明日はいよいよ大会で、えもための会社の中の大会じゃないんで色々勝手が違って、もしかしたら、あるいは緊張とかするかもしれないんですけど、その時できる最善を尽くすので、よろしければ応援してください。
そんな訳で、お疲れ様でした! また明日!」
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