エピローグ
エピローグ
洗面器に張られた水は緩やかに波打ち、窓からの光を部屋に分け与えていた。
そのおこぼれを貰っただけの部屋の隅は、まだ薄暗い。
天井に上がったそれはぼやけた姿で駆けまわっている。
彼女はそれをぼんやりと眺めていた。
私が一歩、その薄暗の中に足を入れると、縄張りを荒らされたように肩を僅かにこわばらせた。
それでも一歩、もう一歩。何故なら私の居場所はそっちにあるから。
彼女は立ち上がろうとした。そして自らを縛り付けているものに気付く。
絶叫。喉を切り裂こうとするような、自らの体を顧みているなら決して出してはならない音。
力任せに腕を振り回す。ベッドと、金属が軋む音。体と腕を叩きつけてそれを自由にしようとする。
拘束が外れた。彼女の腕から床へと止めどなく流れていき、垣間見える白く折れ曲がったものを隠している。
それは私の足を止めようとまた音を投げつけてくる。もういくつか失われた歯を叩きつけながら。
私はもう一歩、前に出る。彼女もまた体を引きずる。
「たぶんなんだけどさ、もう私には引き取り手がないと思うんだ」
もうここまでは光は届かない。だから彼女の顔は見えない。
だけど、私たちにはそんなもの必要ない。
私はまた一歩、前に出る。私の居場所が近づいてく。
「だから約束。私たちのファーストキスだ」
彼女の唇が、迫る。迫る――
腐乱系コンフィメーション 完
腐乱系コンフィメーション 十手 @Jitte_77
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