#15〔真実①〕
4年前。
アスタリスク魔法学院中等部。4年制であるこの学院の最初生、1中生、2中生、最上生のうち2年目にあたる1中生に、話題となっている班があった。
中等部では入学時に班と呼ばれる、4〜6人のパーティを構成しなくてはならない。大抵は仲の良い者同士が組むことになる。
学院生活は常に班員と共に行動する。
例えば、授業。ディスカッションは常に班員同士で行う。
例えば、実技。弱い魔物であっても、班員で協力し合って戦う。
1中生の話題の班。班名は【龍斬り】。なんでも幼馴染で構成されたらしいその班は、最上生顔負けの成績を残した。
最初生にして人喰い
25体からなる
班別対抗戦で5連覇。
冒険者としての成功は、約束されたかに見えた。
そしてそれは班員達も例外ではなかった。
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その日は実戦授業だった。弱い魔物しか出ないような森で魔物を狩るという非常にシンプルなものだ。
とはいえ一応にも魔物と直接矛を交えるのだ。余計なリスクを負わないため、厳重な体調検査が行われていた。
学院生御用達、アールル森林に着いた。4人の教員、内1人。神官の女教師は、あることに気付く。
「フィルルくん、大丈夫?」
少しだけ苦しそうな様子。
〈身体透視〉
身体の内部を見ることができる、主に体調の検査に使われる魔法を行使して確認する。
瘴気過受症。
珍しい病気ではない。風邪などで免疫力が低い状態のときに瘴気にあてられることで発症することがある。まぁ成人を過ぎれば発症率は大きく下がるのだが。
「フィルルくん、今回は休んでおきなさい。」
「わ、かりました。」
「フ、フィルル大丈夫か?」
リーダーであるレインが心配そうな声をあげる。
「だい、じょうぶだ。」
フィルルは女教師と共に、森の外へと戻っていった。
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フィルルを失った【龍斬り】だったが、教師たちとレインの判断により、実戦試験は続行された。
戦力が4分の1になってしまったがそれでも余裕を持って倒せるだろうと考えるレインにルリナとローラ。
目立たない後衛職を軽視しているが故にいつもと変わらない戦闘が出来るであろうと考える教師。
その両者の考えは最も一般的だろう。そして、多くの場合では正しいだろう。
——しかし、何事にも例外は存在するのである。
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「
20分ほど歩いた頃、レインがゴブリンを発見する。数は3体。フィルルがいないとはいえ、25体を相手にした【龍斬り】にとってそれは造作もないことのはずだった。
レインは腰の剣を抜き——
ルリナは杖に魔力を込め——
ローラは力を込めて地を蹴り——
——感じる。
——重い、と。
——薄い、と。
——遅い、と。
結局ゴブリン3体を倒すのに10分もかかった。いつもであればレインの一太刀と、ルリナの一撃と、ローラの一刺しで終わったはずだ。
これが気のせいだとは、とても思えなかった。
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成果はゴブリン3体。いつもであれば人喰い鬼オーガを倒したと、ゴブリンを多く倒したと、喜びあっていたはずだ。
ここまでくれば否が応にも理解する他なかった。
今までの自分たちの活躍は——フィルルのおかげだったのだと。
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時は過ぎ、〝あの日〟の1週間前。
「今日ここに集まった理由は…わかるな?」
重い重い口を開くレイン。ここに集まったのはフィルル以外のパーティメンバー。暗澹たる雰囲気が漂っていた。
「えぇ。フィルルのこと……よね?」
言ったのは盗賊のローラ。いつもは天真爛漫な彼女だが、今回ばかりはそうはいかない。
「そうだ。あいつは強い。だから……」
この先は口に出すことすら難しい程に、レインの心は深く沈んでいた。
「追放するしかない。」
代わりに続きを述べたのは魔法詠唱者、普段寡黙なルリナだ。
「そうだ。あいつは優しいからな。お前だけが強いからもっと高位のパーティに入れてもらえって言っても、きっと行くことはないよ。」
「そうね。ずっと言ってたものね。私たちと英雄になるんだって。」
「俺たちはフィルルにとって足枷でしかない。俺たちがいる限り、どれだけ頑張っても精々灰輝鋼ミスリル級が限界だからな。」
沈黙が場を支配する。
何分かはそのままだった。3人の目には涙が溜まる。
「フィルルだけでも、夢を叶えてもらいましょう。」
「……応援…するしかない。」
「あぁ、勿論だ。——それにな!」
無理矢理口調を明るくしたレイン。
「ここからは朗報だぜ!俺の叔母さん——ミラさんが今金剛不壊鋼オリハルコン級のパーティを運営してるのは知ってるだろ?」
「えぇ。叔母さんって言ってもまだ24なんでしょ?」
「まぁな。それでよ!この前ミラさんと会う機会があってな。そこで徹底的にフィルルを売り込んでやったんだ!そしたら『そこまで言うなら』ってフィルルを入れてもらえることになったんだ!」
「へぇ!やるじゃない。」
「…たまには……役に立つ。」
「『たまには』は余計だっつの!」
3人は笑い合う。混ざり混ざった複雑な感情を、笑顔として放出することで、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
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