#14〔殺戮〕
——ドゴン!
轟音が響く。
何かが破壊される音。何かが崩れる音。
俺の目を覚まさせた音の方向を向く。
そして気付く。
「あっちは!」
実家だ。母が、父が、姉が住む家の方向。
「リュカ!レナを任せる!レナはリュカから離れないでくれ!俺は行ってくる!!」
最早落ち着いてなどいられなかった。幼馴染から裏切られた今、1番大切な人が誰かと聞かれれば姉だと答えるだろう。
俺は机に置かれた2つの指輪と1つの首輪だけを手にする。
そして宿から飛び出して音の方向へ駆ける。全力で駆ける。
✳︎ ✳︎ ✳︎
最初に来たのは聖騎士だった。純白の鎧の胸に付けられた紋章はリザール教のもの。手の甲の部分にも紋章が付いており、それが意味するところは神官長直轄騎士団であるということ。一般騎士団の一段上に君臨する騎士団だ。
そんな団員が9名。緊急招集されたのだろう。
しかしそんな有象無象では相手にならない。否、有象無象では決してない。神官長や神殿長の直轄騎士団は紛れもなくエリートだ。これは
「クククク」
いつものような笑顔で笑う。あまりに邪悪で醜悪な笑み。
次に来たのはやはり聖騎士。しかし、手の甲にある紋章は騎士団長を意味する。男と思われる騎士団長は変わり果てた部下の有り様に吐き気を催す。当たり前だ。数時間前まで共に杯を交わした愛でるべき部下が、一瞬にして肉塊へと変わっているのだから。
積もり積もった悲痛は激情となって目の前のダイブに向けられる。神聖属性が込められた剣を構えると、感情は暴走する。
「うぉおおおおおおお!!」
あまりに理不尽な出来事の——その根源を叩き潰すために。
——しかし。
現実とは無情であるのだ。どれだけ感情が荒ぶったとて、物語のようにはいかない。
強者による理不尽は正義となり、
弱者による正義は正義とはなり得ない。
現実とは——無情であるのだ。
ダイブは邪悪な笑みを浮かべたまま、騎士団長の首を跳ね飛ばした。一欠片の慈悲もなく。
(少しぐらい手応えが欲しいものだ。)
思わず心の中でダイブは愚痴を溢す。なぜなら今こちらに向かってきているのは、如何にも弱そうな男1人と女2人であったからだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「なん、という」
崩れた壁を発見する。あそこは確かリザール教の神殿だったはずだ。最も聖騎士の多いリザール教に喧嘩を売るなど愚かだとと言わざるを得ないが、よく考えれば壁をあれだけボロボロにできる存在ならばそれも肯けるかも知れない。
「!?」
ゾワリ。何かが背筋を走った気がした。その原因はすぐに分かった。進めと理性が命令し、逃げろと本能が告げる。普通逆ではないかと言いたくなる。
身長はおよそ2メートル。有り得ない密度。異常な筋肉。
男が俺を見据えた。周りいる者達には目もくれず。俺だけを見据え——そして笑いかける。
堂々と歩みを進める男に、横から1人の男が剣を振るう。
しかし、剣が届く前に腕は振るわれる。邪魔だと言わんばかりに。コバエを払うように。
払われた男は俺の側で転がる。
「大丈夫か!?」
ポーションを差し出そうとして——気付く。
「レイン!?」
俺を追放した幼馴染であるということを。
✳︎ ✳︎ ✳︎
この状況を説明するには〝あの日〟まで、
否、もっと、もっと前まで巻き戻す必要がある。
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