#6〔武器屋〕

王都に戻った俺は魔術紙スクロール専門店に来ていた。


スクロールとは、特殊な加工がなされた強度が高い紙に魔法を封じ込め、使用することで1度だけその魔法を発動することができる、というものだ。紙自体が高価であることや、紙を加工することができる技術者が非常に少ないため、その値段は非常に高い。購入する者はなかなかいないが、金銭的に余裕がある、高位又はソロで活動する冒険者はたびたびここを訪れる。スクロールが売っているのが王都でここだけであるということも相まって、それなりに利益を出していると、先ほど道を聞いたお姉さんが言っていた。


ここに来た理由はもちろんスクロールを購入するためだが、その中でも回復系のスクロールが欲しいのだ。

回復する手段は大きく数えて3つある。魔法詠唱者による回復魔法、安価で買える回復ポーションの使用、そして、スクロールによる回復魔法だ。


ポーションでもいいと思うかもしれないが、しない理由はその回復量にある。スクロールの回復量は魔法を込めた魔法詠唱者の能力に依存するので、高位であればあるほど回復量が多くなる、というのはもちろんなのだが、弱い魔力の魔法では紙に弾き返されて魔法を込めることができない。そのためある程度高位の魔法詠唱者でなければ込められないのだ。冒険者で言うところのプラチナ級辺りが最低ラインとされる。対してポーションの回復量は魔力量的にはアイアン級レベル。その差は歴然なのである。まして俺は武器を拳としているため、前衛でありながら鎧などの防御力の高い武装ができない。必然的に被ダメージ数が多くなることは想像に難くない。


とういのが、スクロール専門店に来た理由だ。



幸い【龍斬り】として活動していた間の金はある程度残っているので問題はない。さらに少しではあるが、先の無惨なゴブリンを売ったの分もある。


余談にはなるのだが、ゴブリンなどの魔物を売ることができるのは基本的にはギルドだけである。しかし王都だけが例外であり、従魔登録にも行った王国総合受付場でも魔物を売ることができる。ただギルドに存在する報奨金の制度がなく、その価格は下がってしまうのだが、冒険者でない者はそこで売るしかない。ゴブリンなんて言う誰も食べようとしないような魔物は特に価値が低い。豚やら牛やらの家畜の餌になるだけだ。その家畜も喜んで食べるような品物ではないので味はお察しであるだろう。ちなみにさっき売ったゴブリン2匹で銅貨1枚。パサパサの白パン1個ですら買えない。


閑話休題。


俺は比較的目立つところに配置されたスクロールを手に取る。込められた魔法は〈神力の癒し〉。フランチャルド教の神官が使用できる回復魔法である。かくいう俺の両親も信者であるため、幼い頃怪我をしたときなんかにはかけられていたのだ。そのためこれをかけられると妙に安心してしまう節がある。

同じものをもう2枚手に取ってスキンヘッドの店主に差し出す。


「金貨4枚と銀貨4枚ね。」


「はいよ。」


銀貨が3枚しかなかったため、金貨を5枚差し出し、お釣りとして銀貨を6枚貰う。

小さな声で礼を言われた気がするが確証がないので無視する。返事を期待していたわけでもないだろう。


✳︎ ✳︎ ✳︎


スクロール専門店から歩いて15分。(ちなみにリュカはいると妙に目立つので予め取っておいた従魔可の宿で待ってもらっている。)次に来たのは『武器屋ゼータ』だ。お姉さん曰く「ここより質の良い武器を置く武器屋は知らない。」とのこと。大通りから外れたここは人気ひとけが殆どない。ギイギイと嫌な音を鳴らしながら扉を開く。中は狭く、武器もさほど多く並んでいる様子はない。奥に座らながら剣を打っているのは老人だった。そして頑固そうに曲がる口を開く。


「誰の紹介だ?」


はて。俺は困る。道と武器屋を聞いたお姉さんを思い出す。名前を聞いておかばよかったか、と今更ながら後悔するが、誰にも紹介されなかったと聞くよりはお姉さんのことを話した方がいいだろう。


「えーっと、名前はわからないんですが……茶髪の…ショートカットのお姉さんに聞きました。」


そんな細かく言ってもわかるはずがないだろう。そんな思いとは逆に、老人の手はピタッと止まる。


「服装は。」


俺の方をしっかりと見据えて言う。


「黒いアーマープレートを着けてたと思います。」


一瞬だけ目を見開く。


「いいだろう。…奴が教えたと言うことは……」


最後の方が聞き取れなかったが俺に向けられた言葉では無さそうなので聞かないでおく。


「お前の職業はなんだ?」


「援護士と拳闘士を兼ねてます。」


「……そりゃまた珍しい。能力比は?」


能力比。

2つ以上の職業を兼ねた者のそれぞれの職業の熟練度の対比だ。代表例でいけば魔法詠唱者と戦士を兼ねた魔法剣士や、盗賊と戦士を兼ねた軽戦士などがある。軽戦士で考えるとするならば、盗賊の対比が高ければ敏捷性が高く、低ければ攻撃力と防御力が高い、といった具合だ。


そして俺の場合は——




「10:0——ですかね。」

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