#7〔ダンジョン〕
「は?」
間抜けな声が返ってくる。見ればポカンと口を開け、顔をこちらに少し突き出している。
「10:0です。」
「バカにしているのか?だったら帰ってくれ。」
「冗談ではありませんよ。現段階ではこんなものです。」
「それは拳闘士とは言わんだろう。」
「拳闘士の定義は『己の拳を武器として戦う。』でしたよね?」
「あぁ、そのはずだ。」
「ならば私は拳闘士です。というのも拳闘士としての技術が全く無いんですがね。」
「うーむ。そんなものでは魔物に勝てない——訳では無いのか。奴が認めたのだからな。どうやって戦っているんだ?」
奴が認めた、と言う部分が非常に気になるところだが一旦無視する。
「〈豪腕〉という、僕のオリジナル魔法を使っているんですよ。」
「ほう、〈豪腕〉。見せてもらえるか?」
「わかりました。」
腕に魔力を込めて——発動する。
〈豪腕〉
ボコン、と腕が膨れ上がった。
「んなっ!な、んという、これは…凄い。確かに並大抵の相手じゃぁ振り回せば勝てるな。」
「はいまぁ、今のところは。」
「ふん。お前はなかなか見所がある。作って欲しい物があるなら言ってみろ。」
「軽装でかつ被ダメージを減らしたいのですが…」
「なるほど…良い物を作っておいてやる。1週間後、またここに来い。」
「ありがとうございます!」
「ふっ、それを言うのはまだ早いわい。」
「ではまた、一週間後に。」
✳︎ ✳︎ ✳︎
ゴブリンを倒してから3日。今日俺はリュカと共に王都近郊のダンジョンに来ていた。
ダンジョンと迷宮。同列に扱われてもおかしくない2つの単語だが、この場合は明確な違いがある。最も大きな理由はやはり魔物の強さだろう。強さのものさしとなる討伐難易度指数によれば、ダンジョンに生息する魔物のアベレージは30〜40、対する迷宮は250〜となっており、これだけでもその違いは明確だ。ダンジョンももちろん深層になるほど強くなるのだが、迷宮の魔物より強い魔物は滅多に出ない。また、ダンジョンはそれぞれで生態系を形成しているが、迷宮はそうではないらしく、迷宮内のどこかから湧いてくるという仮説が立てられている。
そしてもう1つある違いはその構造だ。ダンジョンは入り組んだ迷路のようになっているのに対し、迷宮は常に一本道となっており、道は交差しない。更に振り子状であるために迷宮内は余すことなく道が張り巡らされているのだ。
ダンジョンの入り口だが、そこに門番がいる訳でもわかりやすいように装飾がなされている訳でもない。四角に切りとられたかのような穴と中から漂う強烈な死臭だけが、ダンジョンの入り口であることを告げていた。
豪剛ダンジョン。
それがこのダンジョンの名である。ダンジョンの名前はそのダンジョンの特徴を示す。という常識の例外に漏れることなく、このダンジョンは力の強い魔物が多く生息する。現在11層まで攻略されており、
少なくともオークぐらいは苦戦せずに倒せると踏んでいるが、いくらリュカがいるとは言え、その油断が命取りにならないとも限らない。俺は両頬を叩き、もう1度気を引き締める。そしてダンジョンに入るときの必須アイテムである、〈臭覚鈍化ポーション〉を飲む。速攻性のポーションであるため、すぐに効果は見られるはずだ。よほどの貧乏人ならともかく、この品物を常備していない冒険者はそういない。
更に言えば俺が常備しているのは通常の物より少し高価な物だ。信頼できる商人から定期的に受け取っている。安物を掴まされて後遺症が残った、なんて話はよく聞くので、その辺はやはり注意を払っている。でも毎回商人から受け取ってパーティメンバーに渡してたのは俺だったよな……
かつての仲間に想いを馳せるが、そんな暇がないことに気がつく。ダンジョンでは魔法以外での時間の確認方法はない。そして生憎その魔法を俺は取得していないため、少なくとも遅くはなりすぎないようにしたいのだ。
さっきまで俺の鼻を曲がらせていた臭いはいつしか消えていた。
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