#2〔神狩狼〕
フワフワとした感触に俺は目を覚ました。あまりに柔らかく、それでいて心地よい。まだ夢の中なのかと錯覚するが、それは現実的な感触が否定する。
灰に輝く毛が目に映る。魔物の1種である狼ウルフに似た、しかし明らかに違う毛。それを見てもなお、やはり現実味に欠けている。その全貌を確かめるべく、俺は立ち上がる。映ったのはやはりウルフに似た魔物だった。
そして俺は衝撃をうける。
なんと神々しいのだろうか、と。
あぁ、これだけ美しい魔物になら、殺されても良いかもしれない。人生の最後を飾るには最高ではないか。
そんな思案をしてみたが、そんなことが起こらないのはわかっている。この魔物に敵対心はない。俺を包み込むように、護るように眠っている。
——聞いたことがある。このウルフに似た魔物を。神話の時代の話を、遠い昔に。
——
神をも狩るとされる伝説の狼。それこそが目の前にいる魔物であると、ようやく俺は理解した。
あり得ない。しかし、それが事実であると認める他なかった。
「グルゥ」
音を立ててフェンリルが起きた。顔を上げて一瞥したかと思うとその綺麗な顔を俺の頬に擦り付けてきた。
「グルゥ♪」
どうやらかなりご満悦と言った様子。可愛いやつだ。
「ウゥ」
フェンリルが地に伏す。敬意を表すように。
これが何を意味するか、そんなことはこの世の常識だ。
従属の姿勢である。魔物が人間もしくは亜人に対して行う。それを人間側が認めればその魔物は従魔となり、使役することができる。
しかしそれには本来、特殊な技能が必要となる。そのために魔物を使役したい者はサモナーやテイマーの職を得る。
だが俺は一介の援護師。フェンリルが地に伏す意味がわからない。それでもこれを逃さない手はない。
「従属を受け入れる。お前の名前は……お前の名前は……」
しまった。こいつはオスなのか?それともメスなのか?何処で見分けるかなんてわからないぞ。
「アォン」
こっちを見ろと言わんばかりに鳴くフェンリルを見れば、足を広げて股を見せてきた。
「oh……」
あった。なるほど。オスらしい。
これが本当の狼睾丸ってか?
「よし!お前の名前はリュカ!リュカだ!」
リュカというのは神話の時代、悪魔たちから神々を護り抜いたとされる伝説の魔物、リュカデュードからとった。
リュカが嬉しそうに身体を擦り付けてくる。
「ギルドに従魔登録しなきゃな。ってかここどこなんだ?」
アォン、と鳴きながら背中に乗れと首を振る。
「案内してくれるのか。」
可愛いことこの上ないね。
✳︎ ✳︎ ✳︎
この後1時間ぐらい歩いたが全く魔物に合わなかった。これもフェンリルだからかもしれない。
街が見えてきた。大きくレンガで出来た門。門番が2人立ち、その前には多くの人々が並んでいる。
——俺の見たことがない光景。
王都。そう、王都バリリュリュールだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
フィルルは、知らない。
フェンリルを呼んだのは、自分の力なのだと。
『龍斬り』がプラチナ級まで昇り詰めることができたのは、自分のおかげだと。
フィルルは、何も知らない。
——フィルルだけが、何も知らない。
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