幼馴染パーティを追放された援護師、フェンリルを拾う〜おまけに1人でも強かったので未踏の迷宮攻略します〜

ギンヌンガガプ

鮮血の狂鬼編

#1〔追放〕

「フィルル、お前はもう要らない。このパーティから出て行ってもらう。」


ギルドと併設された酒場の一角で、そんな言葉が端正な顔立ちをした男から放たれた。


下から、カッパーアイアンシルバーゴールド白金プラチナ灰輝鋼ミスリル金剛不壊鋼オリハルコン神縛りの鋼アダマンタイトとある冒険者ランクのうちプラチナ級に値する高位のパーティ、【龍斬り】に於いて追放の宣言が為されたとなれば、ギルドの注目を集めるには十分だった。実際、ほとんどの者が少しばかりの嘲笑を称えながらそちらを見つめている。


「え?」


フィルルと呼ばれた少年は信じられないといった表情で男を見る。


「なんでかわからないみたいね。後ろで立ってるだけのあんたは要らないって言ってんの。さっきの戦闘、あなたは何かした?したなら言って見なさいよ。」


次に発したのは横にいた女だ。美しい金髪に整った顔立ちは、世の男を魅了することは間違いがないだろう。


フィルルは頭の中で回想する。さっきの戦闘、というのは人喰い鬼オーガとの戦闘のことだ。最前で対峙する戦士のレイン、後ろから相手に下降補正のかかる魔法をかけ、さらに攻撃魔法を撃つ魔法詠唱者のルリナ。地形を把握してオーガを掻き乱す盗賊のローラ。そして後ろからバフをかけて援護するフィルル。何もしていなかったわけではない。しかし、何もしていないように見えたのだろう。フィルルは思う。


「…… 私も…そう思う。」


そして気弱そうな女が追い討ちをかける。4人で構成されたパーティに於いてうち3人が同意したとなれば、即ち決定を意味すると言って差し支えない。既にフィルルに一切の権利はないのだ。


「……… わかった。」


それだけを告げ、フィルルはギルドを後にした。


✳︎ ✳︎ ✳︎


俺たち4人は幼馴染だった。あらゆる宗教の聖地とされる聖都市で生を受けた俺たちはいつも一緒だった。何をするにも、何処へ行くにも。


俺たちはいつも夢を語った。冒険者になって、英雄と呼ばれて、幸せに暮らすんだ、と。だから16歳になって、みんなで都市を出た。そこからは順調だった。


戦士のレイン、魔法詠唱者のルリナ、盗賊のローラ、そして、援護師のフィルル。


早さは異例だった。早すぎるスピードで昇り詰めて行く俺たちは、いつしか有名パーティとなった。

みんなで切磋琢磨してきた。——いや、そう思っていたのはきっと俺だけなのだろう。それでも、少なくとも俺の目には、今日のような横暴な様子は映らなかった。

ずっと信頼していた。それが故に、追放されたショックは並大抵ではなかった。


どうすればいいんだろう。このまま1人で冒険者を続けるか。いっそのこと、吟遊詩人にでもなって各地を彷徨ってやろうか。それならば旅人でもいいかもしれない。全ての枷を外して遊び尽くそうか。

そんなできるはずもない妄想に思いを馳せる。現実から逃げるように、頭の中の仮想世界の住人になろうとする。


喪失感のせいか。いつの間にか俺は森に居て。今の状態こそ、真に彷徨っていると言うべきかも知れないな。全てがどうでもいい気がした。このまま死んでもいいかもしれない。睡魔のせいか、それともこれも喪失感なのか。





俺は、意識を手放した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る