第10話 妖精さん救出作戦開始

「ふーっ、マジでギリギリだったな。皆、大丈夫か?」


 サーキーがそういうなり、その場にぐったりと座りこんだ。


「ああ、なんとかな」

「もう魔力はほとんど残ってないけどね」


 他の者も力尽きたように、その場に膝をついた。

 俺はというと、まだまだ余力があった。


【治療Lv.3】もあと十回は余裕で使えそうだ。


(それも戦闘を他のひとたちがやってくれたからだけど)


 生で観るマジな戦闘はすごい迫力だった。

 当事者なのに現実感がなくて、まるで映画を観ているみたいだった。


「皆、よくやってくれた。礼金ははずませてもらうぞ」


 荷馬車から出てきた商人のカドルーが、満面の笑みでいう。


「ああ、そうしてもらわなきゃ割りにあわねぇ」

「俺たちだけじゃなくて、カズヤにもいくらかやってくれよ。カズヤがいなきゃ間違いなく全滅してたからな」


「【治療Lv.2】を連発してくれたおかげね」

「もちろんだ。カズヤさん、今回は本当に助かりました」

「いえ、勝てたのは皆さんが頑張ったからですよ」


 俺はそうこたえつつ、どうやって妖精さんを助けるか考えていた。


 俺とカドルーを除いて皆、立っているのもやっとの状態だ。

 否、スーラだけは少し余裕がある様子だが、それでも今、新たな魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。


――それこそ、狂乱状態のぷるるんやクモスケがあらわれたら……。


 たぶん、クモスケも【狂乱Lv.1】を共有させられるはずだ。


 あとは狂乱状態のぷるるんとクモスケと意思疎通できるかどうかだけど……。


 いや、できるかどうかじゃない。

 これを逃したら、もうあの妖精さんたちを助ける機会はやってこない。


 俺は決断した。


 現在、カドルーも含めて俺以外全員、妖精さんのいる荷馬車から離れている。

 誰も俺に注意を向けていない。


 俺はさりげなく荷馬車の傍へ寄った。


(ぷるるんは荷馬車の上へ、クモスケは荷馬車から少し離れた位置に行ってくれ。

 どっちも見つからないように気をつけろよ)


【伝心】で命じると、すぐさま、


――了解!(x2)


 と返事が返ってきた。


 正確には「「り!」」といったような意思が、なんとなく伝わってきた感じがしたような……というくらいだったけど。


 ぷるるんとクモスケが服の中からそっと抜け出し、足を伝って地面に降りた。

 ソロソロと荷馬車の下に潜りこむ。


 ぷるるんは荷馬車をうにゅうにゅと登っていき、クモスケはカサカサと遠くへ離れていく。

 クモスケはせいぜい掌の半分くらいの大きさなので、普通に移動していても誰も気づかないだろう。


 ぷるるんが荷馬車の上に辿り着いた。


 よし、まずはぷるるんの【隠密Lv.1】を外して……。


(ぷるるん、狂乱状態になって俺を捕まえろ!)


 え、なんで!? と困惑するのが伝わってきた。


(こんな感じにしたいから……)


 俺は意図していることをイメージし、それをぷるるんとクモスケに伝えてみた。


 わかってくれるかな?……


――きゅっ!

――わしゃっ!


 うん、伝わったっぽい。


 間を置かず、ぷるるんが荷馬車の上で【狂乱Lv.1】を使用した。


「うおっ、なんだありゃ!?」

「あっ、危ない、カズヤ!」


 予定どおり、俺はすぐさま巨大になったぷるるんに捕らえられた。

 首から下をぷるるんの身体に包みこまれる形になっている。

 荷馬車の上で巨大化したおかげで、彼らの目にはぷるるんが実際以上に大きく見えていることだろう。


「くそっ、まだいやがったか」

「カズヤ、今助けるからじっとしてろ! 皆、動けるか」

「ああ、なんとかな」

「狂乱状態でも、スライム一匹くらいならどうとでもなるわ」

「酸弾をよけりゃ、あとはなんとでもなるしな」


 皆がうんざりしながら、慌てた様子もなく立ち上がった。

 実際、スライムはそれくらいの危険度なのだろう。


(ぷるるん、俺の考えていることは伝わってるか?)

――きゅっ!


 お、伝わってる。

 意識まで狂乱状態だったらどうしようかと思ったが、これなら大丈夫そうだ。


 クモスケも少し離れた場所で待機してくれている。


 俺は改めて気を引き締めた。

 上手くやらないと、妖精さんたちが死ぬことになる。


――これが俺の初仕事だ。


(ぷるるん、酸弾だ)


 俺はどう攻撃するかイメージした。

 ぷるるんの身体が大きくへこんだ。


「やっぱりスライムの酸弾は、どこに跳んでくるかわかるから楽でいいな。こいつは俺がやる!」


 サーキーが薄ら笑いすら浮かべながら、ササッとその場を離れて酸弾のコースから外れると、真っ直ぐぷるるんに向かって突き進んだ。


(上手くやってくれよ……)


 俺が祈ると同時に、まだへこんでいる最中のぷるるんの身体の一部、直径三十センチくらいが動きを止めたかと思うと、いきなりプッと酸弾が発射された。


「うおっ!」


 サーキーが慌てて剣の峰で受け止めた。

 砕け散った酸弾の一部が、サーキーの頬を焼いた。


「え、なんで!?」

「おいおい、スライムが酸弾を全部溜め込む前に撃ってくるなんて聞いたことねーぞ」

「しかも撃つ方向まで変えやがった」

「こいつ、普通のスライムと違うわ!」


 うん、俺が指示してるからね。


 ぷるるんは小さな酸弾をさらに七発、彼らに向けて撃った。


「きゃっ」

「うわっ!」

「くそっ、マジか!?」

「まさか、こんなことができるとは……」


 普通のスライムは俺と闘った時のぷるるんと同様に、最大の酸弾を一発ずつ放つものなのだろう。

 にもかかわらず、かなり小さいとはいえ同時に何発も撃ってくることに、俺を除く全員が驚いていた。

 いつどこへ酸弾を撃ってくるかわからないとなると、スライムはかなりやっかいな敵になる。


――少なくとも狂乱状態のスライムは。


「皆さん、逃げてください!」


 俺は当初の予定どおり叫んだ。

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