第8話 妖精さんと出会った

「カズヤ、おまえは闘えるのか?」


 サーキーにそう訊かれて、自分も当事者の一人なのだと気づかされた。


「一応【剣術Lv.1】と【刀術Lv.1】はありますが、闘ったことはありません」

「む、そうか」

「けど、治療術ならLv.3まで使えます」

「Lv.3!? そりゃ凄ぇ! それなら後方で援護を頼む」


「わかりました。ですが、できれば剣か刀があれば、念のために貸していただきたいのですが」

「剣ならあの荷馬車の中にあるから、どれでも好きなものを使ってくれ」


 カドルーがいった。


「ありがとうございます。お借りします」


 俺は少し離れた場所にとめてある荷馬車の中に入った。


――――――なんかやばいことになった。


 魔物に襲われる? 

 サーキーたちが負けたらどうなるんだ?

 俺、死んじゃう?


 ぷるるんを治療術で癒したような都合の良い展開が、そうそう何度もあるはずがない。

 かといって逃げ出すこともできなさそうだ。


(勝ってくれることを祈るしかないか)


 俺はにわかに心臓がバクバクするのを感じながら、荷馬車の中を見回した。


 暗くてなにも見えない。


【生活Lv.1】の中のひとつ【灯火】を使った。


 これはごくわずかな魔力で一定時間、二、三本の蛍光灯くらいの光を発生させることのできる技能である。


 たちまち荷馬車の中が明るくなった。


 めっちゃ便利。


(剣なんか使ったことないけど……)


 どんな魔物が襲ってくるのかわからないが、なにも持たずにいるのは怖すぎる。

 気休めにしかならなくても、とにかくなにか武器を持たないと。


 武器を探しはじめると、


「人間さん、助けてくださいでち」


 どこからともなく幼い少女のような声が聞こえた。


「え!?」


 俺は声のした方向を見た。


 荷馬車の隅に鉄格子の檻があった。

 その檻の中に子猫くらいの大きさの少女が一〇人いた。


「お願いでち。あたしたちを元の場所に返してくださいでち」

「人間さん、お願いしますでち」


(妖精さんだ!)


 元の世界で見た三人の妖精さんと同じ姿だ。


 全員、裸で髪の色も黒、茶、金、銀、赤、緑等、様々――。

 肌も白、黒、黄、褐色等、多種多様だ。


 妖精さんを目の前にして、俺は改めて思った。


――――――なんちゅう可愛さや!


 人形のような、否、ぬいぐるみのような、可愛いという概念を極限まで表現しきった存在。

 こんなの誰だって愛さずにはいられないだろう。

 愛さなければ人間じゃない。


 あの女のひとは妖精さんを「愛を具現化した存在」といっていたが、それも納得の愛らしさだ。


(うーむ、こんな可愛い妖精さんたちを殺して薬にするのか……)


 許せん!


 俺は怒りが沸々と湧きあがってくるのを感じた。


 先ほどサーキーたちがラッキーとかいってたのは、妖精さんを見つけたことなんじゃないか?


 妖魔憑きとかいうやばい病気を唯一、治す薬を造れるという事らしいから、さぞかし高く売れるだろう。


(絶対に助けないと)


 けど、どうやれば助けられる?


 誰にも見咎められずに檻から助け出して、この場から離れることができるか?


――無理だ。


 そもそも、今は魔物に襲われている最中なのだ。

 妖精さんを助けている余裕などない。


 今のうちにぷるるんを外に出して、酸で檻を溶かし、妖精さんたちを脱出させて遠くへ逃がすというのはどうだろう。


――駄目だ、危険すぎる。


 それに、逃がしたのが俺だとばれたらまずいことになる。


(なにをするにせよ、今は様子を見るしかない)


「妖精さんたちは俺が必ず助け出す。けど、すぐには無理だからこのままじっとしててくれ」


 俺がそういうと、妖精さんたちの表情がパッと明るくなった。


「わかったでち!」

「おとなしく待ってるでち!」

「優しい人間さんに出会えて良かったでち!」

「これで安心でち!」


 無邪気に喜ぶその姿に、俺は胸が痛むのを感じた。


(なんでこれで安心できるんだ、素直すぎるだろ!

 助けられなかったらどうしよう……)


 彼女(?)たちが哀しむ姿を想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。


 くそっ、あの女のひとも俺を世界最強にしてくれるとか、誰でも俺の命令には絶対逆らえなくなる魔術を使えるようにしてくれていれば、妖精さんを簡単に助けることができたのに!!!



 俺は心の中で愚痴りながら、手ごろそうな剣を取って外に出た。

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