第6話 こっちの世界のひとたちと出会った
森道を歩きだして程なく、陽が沈みはじめた。
やばい。
このままじゃ、あと一〇分もしないうちに夜になってしまう。
あの女のひとがテントを用意してくれたおかげで、そんなに不快な思いをしなくてもすみそうだが、スライムのような魔物がいる森の中で一夜を過ごすのは怖い。
不安しかない。
どこかテントを設営できるようなひらけた場所を探さないと。
そう思った時、後ろの方から騒がしい音が聞こえてきた。
(……もしかして、馬車?)
昔観た西部劇の映画で聞いたような音だ。
こっちの人がスライムや令嬢蜘蛛のような魔物を見たら、どんな反応をするんだろう。
もしかしたら、すぐに退治されてしまうかもしれない。
「ぷるるん、クモスケ、俺の服の中に隠れられる?」
「きゅっ」
わしゃわしゃ!
二匹は心得たとばかりに、俺のTシャツの中へ入っていった。
ぷるるんは平べったくなって、俺の腹に張りついた。
クモスケは胸の辺りに入った。
(なにかにぶつかったり叩かれたりしたら、クモスケが潰れちゃいそうだな)
「ぷるるん、クモスケを守れる?」
「きゅっ」
Tシャツの下で、ぷるるんがクモスケを自身の身体で覆った。
なにかに当たっても、ぷるるんがクッションになって守ってくれるらしい。
【隠密Lv.1】も発動させている。
ジャケットを着てるから、多少膨らんでても変には思われないだろう。
(これでちょっとは……いや【隠密】があるなら【索敵】とか【魔物探知】とかいった技能もあるだろうし、安心はできないか)
見つかったら【統率者】の能力を説明するしかない。
けど、この世界のひとがこういう小さくて弱い魔物を、どういう存在として見ているかによるなあ。
どんなに弱くとも、魔物はすべからく退治すべきというのが常識なら面倒な事になる。
かといって、今から逃げるわけにも……。
などと考えている間に、馬車が近づいてくるのが見えた。
正確には二台の馬車と、その前後に五頭の馬だ。
馬には鎧兜をつけている男たちが乗っている。
護衛かな?
若い女のひともひとりいる。
俺は道の端へ避けた。
すると、彼らが俺の前で止まった。
「こんなところでなにをしてるんだ?」
馬の乗り手の一人が声をかけてきた。
二〇歳前後の精悍な顔つきをした男だ。
当然、聞いたことのない言葉だが、これまた当然のように完璧に理解できた。
俺、じゃなくてあの女のひと、マジですごいわー。
本当に神々とか呼ばれるような存在なんじゃなかろうか。
改めて感心した。
「旅の者です。街へ向かっています」
とりあえず無難そうな返答。
「徒歩で? 見たところ、この辺りの出身ではなさそうだが」
「色々と事情がありまして……」
「そうか。この先に野宿に適した広場がある。よければ一緒にどうだ?」
ありがたいわー。
彼らと一緒にいれば、魔物に襲われても大丈夫そうだ。
「それは助かります。ご厚意に甘えさせていただきます」
というわけで、同行させてもらうことにした。
*****
ほんの数分で広場に着いた。
そこは野営地として利用する人が多いらしく、焚火の跡があちこちにある。
俺は彼らとともに焚火を囲み、用意してくれた食事にありついた。
「商人と護衛の方々でしたか」
「ああ。アシャンタで色々と買いこんで、クルーシュへ戻ってきたところだ」
俺に声をかけてきた冒険者のサーキーがいった。
彼は第五等級の冒険者で、ここにいる『赤風』という名の若い五人組パーティーのリーダーをしているそうだ。
ちなみに冒険者の等級は最下等の第七等級から第一等級、さらにその上の特等級まである。
第五等級でもそこそこのレベルらしい。
また、魔物も同じ等級で分けられており、スライムと令嬢蜘蛛は進化していなければ最下級の第七等級以下だそうだ。
(知識がなさ過ぎて、どの等級がどれくらいの強さなのかイメージできないなあ)
とりあえず、敬意をもって接しておけば間違いないだろう。
ただ、へりくだりすぎても舐められて面倒な事になりそうだから、上手い具合にやらないとなあ。
けど、サーキーとその仲間はそう悪いひとたちではなさそうだ。
でなきゃ、馬に乗せてくれたり食事をごちそうしてくれたりするはずがない。
ちなみに、ギルドに登録していないフリーの冒険者もおり、その中には第二等級以上の者もいるらしい。
他にも騎士や傭兵、暗殺者等にも強い者がいる。
それに加えて対魔物と対人とでは必要とされる術や能力が違ってくるため、単純に等級だけで強さを判断することはできないようだ。
同行しているカドルーという名の商人は、クルーシュ王国のアースティカ商会で働いている二〇代半ばの男で、こちらも悪いひとではなさそうだ。
(といっても、ひとの善し悪しもよくわからないんだけど。
こっちは元の世界と比べて、命の価値がめちゃくちゃ低そうだし)
カドルーの傍に護衛の若い男がひとり。
名はスーラで、こちらは冒険者ではなく商会専属の護衛らしい。
『赤風』のひとたちより強そうだ。
俺は色々と思いを巡らせながら適当に相槌をうち、たいして美味くもない肉やスープを口へ運ぶ。
(この分だと、普段の食事だけでなく外食のレベルも低そうだなあ)
まあ、それは仕方ないか。
自分で色々と工夫するしかないだろう。
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