第3話 異世界に来ちゃった

「マジで異世界に来ちゃったの!?」


 本当に!?


 自分で請けるといっておいてなんだけど、いざ現実となったら困惑せずにはいられなかった。


(いや、落ちつけ俺! 焦ってもしょうがない)


 一瞬、パニックに陥りかけたが、なんとか自分を抑えて深呼吸した。

 しばらくして少し落ちつくと、改めて周囲を見回した。


 どこぞの森の中――。


 元の世界となんら変わりない姿形をした背の高い木々。

 地面には無数の枯れ葉が積もっている。


(そういや、あの女のひとが特別な能力を与えてくれるとかいってたっけ。で、どんな能力かというと……)


 わからん!


 行けばわかるっていってたけど、わかるわけが……。


 そう思うや否や、俺は自分がどんな能力を授かったか理解した。


 知らないはずの知識が、まるで誰もが心得ている当たり前の一般常識のように、脳裡に浮かんだのだ。


 俺は『ステータス・オープン』と意図した。

 すると、目の前に文字でステータスの内容が表示された。


     *

名前:雪宮和也

種族:人間

主属性:闇

従属性:

称号:統率者*

称号付属能力:配下Lv.1 契約Lv.1 共有Lv.1 共感Lv.1 伝心Lv.1

技能:診察Lv.3 治療Lv.3 収納Lv.2 「生活Lv.1」 剣術Lv.1 刀術Lv.1

     *


 あれ?

 チートっていってなかったっけ?

 これって、どう見てもチートとは思えないんだけど……。


 でも、あの女のひとが嘘を吐いてたとも思えないし……。

 あ、この「称号:統率者*」ってのがチートなのかも。

 *ってのが、なにやら意味ありげだし。


 うん、たぶんそうだ。

 そうに違いない……よね?


 まあ、それはともかく、ステータス表示で使われている文字は、かなと漢字、アルファベットだ。


 また、こちらの世界の文字や言葉も、現在の俺には理解できるし、会話も読み書きも自由自在である。


 これは確かめるまでもなく、当然の事実としてわかっている。

 まるで最初からこちらの世界で生まれ育ったかのようだ。


 けど、属性が闇というのはちょっと気になるなあ。

 闇ってなんか邪悪な感じだから、光属性の方が良さげなんだけど。


……などと考えているうちに、すっかり心が落ち着いていた。


 チート能力を授かったかどうかはわからない。


――けど、とにかく俺は異世界に来た!


 もともと夢もなければ希望もないまま、糞みたいな人生を送っていた俺だ。

 それが異世界で妖精さんを助けることになるなんて、最高にワクワクするじゃないか。


(少なくとも、あっちでただ淡々と仕事をやって生きていくよりはるかに面白そうだ)


 で、これからどうするかだけど……。


「とりあえず移動するか」


 あと三〇分もすれば日が暮れるだろう。

 この分だと、野宿する羽目になりそうだ。


     *****


 俺は【収納】という技能が使えるらしい。


 なにを収納しているかというと……。


 考えた途端、脳裡に浮かんだ。


 数人が寝泊まりできるようなテント、椅子数脚、肉や野菜、卵、調味料などの食料がたくさん(たぶん一年分くらい)、ポーションがLv.1、2、3、それぞれ一〇本ずつ、鍋やフライパン、皿やコップ、箸やスプーン等の調理器具と食器類等、生活に必要なものが一式揃っている。


 水筒や空き瓶、焚火台なんかもある。

 アウトドアで生活することを想定してるっぽい。


「服と下着はないんだな」


 だが、俺は【生活】も使える。


 もう一度ステータスを開き、表示された「生活Lv.1」の部分をさらに展開した。

 すると、

     

生活:灯火 湧水 浄化

     

 と表示された。


「」でくくられた部分は、さらに細かく分類できるという印らしい。


 レベルアップすれば、他にも生活に役立つ技能が使えるようになるのかな?


 ちなみに【生活】に含まれる技能のひとつ【浄化】で、衣服や身体の汚れは瞬時に消し去ることができる。


(めっちゃ便利だわー。これがあれば元の世界でもめちゃくちゃ生活が楽になるだろうな)


 洗濯機はいらないし、クリーニング屋は廃業だ。


 他には……武器もないな。

 剣術と刀術が使えるんだから、剣か刀があれば良かったのに。


 そういやあの女のひとの名前はなんていったっけ……。


 まあ、いいか。愚痴っても仕方がない。

 とにかくここから離れよう。

 幸い食料はたっぷりあるし、ひたすら歩けばどこかの街へ辿り着くだろう。


 俺は歩きだした。

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