第43話 空の青さを知る人よ


シャームは仰向けのまま動けない。


身体がケガをして動けないわけではない。


腰を抜かして立ち上がれないのだ。




狼が立ち去る姿をシャームも見ていた。


あの光景を見せられたら、もはや敵わない。


勝負を挑んだ時点で負けていたのだ。




「ははっ」




仰向けに見上げた空は、こんなにも美しい青をしていたのか。




「井の中の蛙は大海を知らず」




自分の隣にはアレクが立っていた。




「されど、空の青さを知る人よ」




「自分には剣の強い女性騎士がいて、手合いの時はよく、この空を見せられたものだ」




アレクは弱いふりをしていたことは黙っておくことにした。




「アンタにそれをさせる女はおっかねぇな」




「まったくだ」




二人は笑いあっている。




「お前はまだ強くなれる。俺の手がなくとも立ち上がれるだろう」




「そうだな」




そう伝えたとき、アレクの姿が消えていた。




この日から、シャームは村一番で強いと皆に自負することがなくなった。

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