第42話 青くて痛くて脆い
村一番の強いシャームは突如、村に襲来した巨躯の狼に立ち向かった。
片手には剣を持って狼に切り掛かる。
狼の首筋に剣の刃が当たる。
されど、その刃は狼の巨躯を通ることはなかった。
何度も、何度もシャームは狼を切りつける。
しかし、何度その刃を当てても狼に傷一つ、つけることができなかった。
「はぁ、はぁっ・・・」
やがてシャームの体力が削られる。
獲物が弱るところを見計らって狼が狩りにでる。
狼の脚がシャームを仰向けに地面に押し倒した。
「ぐっ・・」
地面にたった一本の脚で押さえつけられたシャームは身動きがとれない。
「くそっ・・・・」
シャームはもう打つ手がない。
負けたのだ。
完膚なきまでに敗北したのだ。
自然の掟で敗北とは死を意味する。
「俺は村で一番強いんだ!なのに、ちきしょう・・・」
狼が鋭い牙でシャームに止めを刺そうとしている。
ゆっくりと、顎の牙が向かってきたとき、シャームは叫んだ。
「嫌だ、嫌だ、俺はまだ死にたくない! 誰か助けてくれ!」
鼻水と涙が流れていることにも気づかず、死の淵から溢れてきたのは生への本能的欲求だった。
呻くことさえできなくなったシャームは、死を受け入れるように目を瞑った。
「ガォーーーーーーーッ」
突如、狼が呻き声を上げた。
狼はシャームから退き、自分を襲った別の敵を凝視する。
アレクは火炎球を狼の顔に当てたのだ。
狼は態勢を立て直し、襲い掛かろうとする。
追い打ちをかけるようにアレクは火炎球を狼にぶつけた。
「ガォーーッ」
火炎の熱が狼の身を焦がしていた。
無視できないほどの苦痛が呻き声から伝わってくる。
「この村を荒らす狼よ、今すぐこの村から立ち去るがよい」
「さもなくば、この手を止めることはない」
アレクは狼に問いかけた。
言葉が伝わる確証はない。
だが、狼の本能は、闘うか逃げるかの選択しかないのだ。
必然にアレクの問いかけに応えることになる。
狼はアレクを凝視し続けている。
やがて意を決した狼は、踵を返して村に背を向けて歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。