第39話 枯れ井戸に水


アレクは村長と猫耳姉妹に同行して村の中を案内してもらっている。




村の暮らしぶりは、決していい暮らしをしているとは思えなかった。




基本的に自給自足で、作物を売りに出せるのは僅かしかないとのことだった。




井戸の水が不足していて作物が上手く育たないらしい。


さらに雨が降りにくい地域であるため現状の作物はしおれかけていて、質の良い作物とは言えない物だった。




アレクは井戸の中を見せてもらった。


井戸の奥は深く、真っ暗で水が張っているようには見えない。




「御覧のありさまで、この村で水はお金に相当するほど貴重なのじゃよ。


 水不足が解消できればこの村も多少は潤うんじゃが。」




アレクはしばらく思考しながら沈黙する。




「お客人にこのような物を見せてすまなかった。さて、戻るとするかの」




「待ってください」


踵を返そうとしていた村長がアレクに振り返る。




「ある条件を承諾して下されば、この井戸を目で見えるほどの水で満たすことができますよ」




村長は疑念の眼をしていた。


「本当にそんなことができれば、願ってもない幸運じゃな。」


村長は疑念の眼をしながら笑っている。馬鹿にしていると思っているのだろう。


「して、その条件とはなんじゃ?」




「簡単なことですよ。僕が水を創り出したということを外の人に口外しないでいただきたいということです。できればこの場にいる人のみで内密にしていただきたいのですが」




「そんなことでよろしいのでしたら。心よく快諾いたしましょう。ですが、その水は飲める水なのですかな?」




「でしたら、実演いたしましょう。コップを用意してもらってもよいですか?」




ソニアが木製のコップを持ってきてくれた。




村長はコップを持ち、中を覗き込んでいる。


ソニアとレインも同じようにコップの底を覗きこんでいる。




「アレクさん。本当にコップから水がでてくるんですか?」


ソニアが期待を込めた目でアレクを眺めている。




「タネも仕掛けもある手品だけどね。」




アレクは心の中で「クリエイト・ウォーター」と念じ、人差し指の先をコップの先端に触れた。




一見、何も起こっていないように見えた。




だがよく見ると、コップの底から水が少しだけ滲みでてきている。


やがてそれは徐々に勢い増し、コップの上部付近にまで水が張っていた。


その水は透き通った透明であり、飲めるような水であるということは一目瞭然だった。




魔力で大気中の水分を集めて、不純物を濾過した水である。




「素晴らしい!本当にコップの底から水が溢れてきおったわ。」




「わぁ、凄い!」


ソニアはこの現象に興奮しているようだった。




「もし、飲めるような水であるなら、飲んでみてはいかがでしょうか」




村長はコップの水を飲み、ソニアとレインも分け合って飲み干した。




「ぷはーっ 上手い!」




村長の一声にソニアとレインも同調していたのだった。

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