第37話 人族と猫族


アレクと猫耳の姉妹は森の中で一晩を過ごしている。




晩御飯のメニューはウサギの焼肉だった。


焼肉のたれを使った焼肉は二人に好評のようだ。


どうやら猫族でも意外に肉がイケる口ということを知った。




晩御飯を食べ終えた後、お腹いっぱいになったソニアはテントの中で眠っている。




アレクが小さな火を焚きながら見張りをしていると、隣にレインがアレクの横に座った。


小さな焚火の明かりに、レインの美人さと猫耳をほのかに照らし出していた。




「少し、お話してもいいですか?」


「構わない」


「アレクさんは私たちのこと、どう思っていますか?」


「えっ!」


アレクはレインから直球に聞かれて動揺していた。




その様子を見たレインは誤解を招いていることに気付き、頬を赤らめながら、慌てて補足した。


「つまり、人族から見て獣人族をどう思うかについてですよ!」




落ち着きを取り戻したアレクは返答した。


「最初は驚いたけど、触りたくなるほどの猫耳だし、可愛いと思うぞ」




いつかその猫耳を触りたいと思っている。


それを聞いたレインは笑っていた。




「アレクさんは私たちしか知らないですからね」




「昔、人族と獣人族ではよく争いが起きていたんです。小さな争いから、部族の違いを受け入れることができずに全面闘争をしていたんです。結果的に獣人族は負けて、種族が劣っていると見なされるようになったんです。」




「アレクさんがそのような人でなくて良かったです」




その後もレインは人族と獣人族の歴史について詳しく話してくれた。




話を終えたレインはその場から立ち上がり、テントに向かって歩きだした。


「いつか今度は人族と獣人の話を抜きにして、私たちのことについてどう思っているか聞かせてもらいますよ」




去り際に笑顔でそう伝えたレインはテントの中に入っていった。




焚火の火が消えるまでの間、アレクはレインが話してくれた人族と獣人族の歴史について、もう一度頭の中で思い出すことにした。




昔、人族と獣人族は部族の地位を主張して対立していた。


獣人族の身体能力は人族より高く、身体だけでの闘争なら獣人族の方が有利だった。


ところが、人族は文明を開化させ、獣人族の身体能力を上回る武器、防具を生み出し、徐々に獣人族を追い詰めていった。


だが、明確に勝敗を分けたのは人族による魔法攻撃である。


魔法攻撃を受けてから獣人族が降伏するまでの時間はそう長くはなかった。




無条件での降伏を受け入れた獣人族は、かろうじて部族の存続は認められ、許された森の境界にて領土を保持することができた。


しかし、大半が奴隷として人族に強制労働させられていた。


それから長い年月が経ち、獣人族は強制労働から解放された。


解放された後でも、人族より獣人族の方が奴隷として多いのはその名残である。




今日では大規模な闘争時代を経験した人はいない。


人族と獣人族の間に子ができるほど、同じ街で仲良く暮らすことができている。


だが、一度、根付いた差別は薄まることはできても、消えるまでには至らなかった。


何千人かに一人、人族は獣人族を蔑み、獣人族は人族を恨んでいる。


それらの火種により、かつての闘争がいつ起きるのか、誰にもわからない。






「アレクさん、着きましたよ。ここが猫族の村です」


レインが村の門を教えてくれた。


奴隷商館から出発して2日後に到着することができた。


果たしてアレクは歓迎してもらえるのだろうか。


レインから昨日の話を聞いたアレクは帰りたい気持ちになった。

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