第34話 アレクさん、血がついてますよ
アレクと大柄の男が対面している周りを仲間が取り囲んでいる。
「どういうことだ。ソニアが目的なら、わざわざ僕を呼び出す必要はなかったんじゃないか?」
「この嬢ちゃんが目的だったが、こいつを使ってお前さんにも用ができちまったということだ。
この嬢ちゃんを無事に返して欲しくば言うことを聞くのはわかるな」
「それで、何が望みなんだ?」
大柄の男はニタリと笑った。
「まずは、金だ!冒険者登録がはく奪されてから金がねぇ。おかげでこんなことに手を染めちまっている。」
冒険者がはく奪されなくても手を染めていただろう、ということをアレクは言わないでおくことにした。
「ここに金貨320枚ある。これで足りるか?」
それを見た大柄の男は仰天していた。
「お前、これをどこで、十分すぎ・・、いや金だけでは足りねえ」
「アレクさん、そんな男にお金を渡しちゃだめですよ!」
金の引き渡しの光景をみたソニアは激怒していた。
アレクはソニアの言葉を聞き流し、大柄の男に金貨320枚を渡した。
「金はもういい。次は今から俺がお前さんをぶちのめすから、大人しく殴られることだな」
大柄の男は両手指の関節を丸めてパキ、パキ音を立てている。
「ついでに言っとくが、この前のような壁のような出現は、もう無しだからな」
大柄の男は拳を大きく振り上げると、「これは俺をコケにした分だ」と言ってアレクの左頬に直撃させた。
無防備に受けたアレクは口から血を流してかろうじて立っている。
「もう一つは俺の冒険者がはく奪された分だ」
今度は腹に直撃した。
「そしてもう一つはお前が気に入らねえ」
大柄の男の拳がアレクの右頬に直撃したところで、アレクは地に倒れた。
「アレクさん!」
ソニアは悲痛な顔をしている。
「よし、最後はお前達でやるんだ」
大柄の男の掛け声により、仲間がアレクを袋叩きにし始めた。
殴られ、蹴られて袋だたきにされているアレクは意識を失っているように見える。
その光景を見ながら大柄の男は笑っている。
取り押さえられて下を俯いて沈黙していたソニアが意を決して叫んだ!
「アレクさん、立ってください! 強さを隠して弱いふりをしないでください!
お願いです、この人たちを倒してください!」
ソニアの言葉を聞いた大柄の男は気に入らなかったらしく、右手でソニアの両頬を摘み、無理やり自分の方に顔を向かせた。
ソニアの瞳には涙が流れている。
「嬢ちゃん、余計なことは言っちゃいけねぇ。本当に美人の嬢ちゃんだ。今から余計な言葉を喋るその口を塞いでやるよ」
大柄の男の唇が少女の唇に近づいてくる。
ソニア顔を逸らそうにも両頬を摘ままれているため、逃れられない。
「いやあああああああああああ」
ソニアは叫んだ。
あと少しでソニアの唇が大柄の男の唇で塞がれようとしていたとき、突如、強い衝撃波を感じた。
「アレクさん!」
今までアレクを袋叩きにしていた仲間が吹き飛び、軒先の壁に当たり、倒れている。
ソニアの目の前にアレクが立ち上がっていた。
「なんで立ち上がってやがる。この嬢ちゃんがどうなってもいいのか?」
大柄の男は動揺している。
アレクは大柄の男に詰め寄り、手の平を男の腹に当てた。
「悪かった。ちょっとやりすぎちまったんだ。ちゃんと無事に嬢ちゃんを返すつもりでいたさ」
「先に約束を違えたのはそちらの方だ。覚悟はできているな」
「待ってくれ、頼む、見逃してくれ」
命乞いも空しく、大柄の男は吹き飛び、壁にぶつかって気を失った。
本当は男の内部に衝撃波を当てようとしたが、命の危険があったのでやめておいた。
最後に、ソニアを取り押さえている男に向き直った。
「ひぃっ」
敵意がないということを示すように、ソニアを離し、及び腰のまま街中まで逃げて行った。
「アレクさん!」
ソニアはアレクに正面から抱きついた。
その反動でアレクは尻餅をついた。
「どうして最初から相手を倒さなかったんですか?」
「君の身の安全を大事にしたかったからさ」
「適当なこと言わないでくださいよ」
二人は笑っている。
「実は私、キラーベアを討伐したアレクさんを見て、怖くなったんです。32体の討伐ってアレクさんが考えているよりも凄いことなんですよ。私はいつかアレクさんがその力を悪い方に使ってしまったらと考えたら、とても怖くなったんです。でも、今日のアレクさんを見て、この人ならどんなに強い力を持っていても決して悪い方に使わない人なんだなとわかりました。」
なるほど、どこか余所余所しかったのはそういうことだったのか。
ソニアは両腕をクロスして中腰よりも少し低い姿勢でアレクに歩み寄ってくる。
その姿を見たアレクは、あっ、猫だと感じた。
上目遣いで見つめるソニアは、姉によく似ていて、とても美人の猫耳少女である。
「アレクさん、血がついてますよ」
アレクの唇の端には血がついていた。大柄の男に殴られたときのケガである。
「これくらい大丈夫だよ」
「大丈夫じゃありませんよ」
ソニアは耳に掛かった髪を掻き分けながら近づいてくる。
ソニアは舌の先で血が出ているアレクの唇の端を舐めとり、そのまま唇を重ね合わせた。
ソニアの唇は温かくて柔らかい。
二人の唇が離れた後、ソニアの顔が真っ赤になっていた。
「知ってますか? 猫族ではケガをしているところを舐めることがあるんですよ」
えっ、最後のはちょっと違うのではないかとアレクは思った。
「ですから、キスとかそういのじゃありませんからね!」
ソニアは顔を赤くしながら、必死に弁明していた。
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