第14話 それぞれの旅立ち


エリスはゆっくりと目を覚ます。


そこは自分の屋敷のベッドだった。


あれからどうしたんだろうと、最後の記憶を思い出す。


アレクに抱かれて泣きじゃくっていた記憶を思い出したエリスは、恥ずかしさのあまり身体を丸めて布団の上で転げまくっていた。




散々転げまくったエリスは、しばらくして怒りの感情が込み上がってきた。




許せない、許せない、許せない、、、、、、




あれだけ私に教えを受けておきながら、実際は私より圧倒的に強くて、それを隠して弱いふりをしていましただったなんて。




「アレクに会って問い詰めてやる」




ベッドの上で意気込んだエリスは起き上がって、身支度を始めた。


手早く身支度を済ませた時、ドアをノックする音が聞こえた。


「エリスお嬢様、入ってもよろしいでしょうか」


オールステイン家の執事が訪ねてきたので、エリスは「どうぞ」と許可を出した。




「失礼します」


高齢の執事が部屋に入ってきた。


エリスは子供の頃から執事をウィル爺と呼んでおり、孫のように可愛がってもらっていた。


風貌は老骨に見えても剣の腕は未だ衰えていない剣士でもある。


父の護衛を務めていた時もあり、エリスが幼い頃は剣の稽古をつけてくれていた。




「お目覚めになられて本当に良かったです」


エリスは執事から眠っていた時に起きていた出来事を聞かされた。




「ドラゴンの脅威が消え去った後は、街に人が戻り、復興に取り掛かっています。


ケガをしたエリスお嬢様をここまで背負ってこられたのはアレク殿でございました」


エリスの肩が驚きで微かに震えた。




「そして、ドラゴンを倒したのはエリス様であると伝えられました」


「違うわ!」


エリスは全力で否定した。


執事は少しの沈黙の後、言葉を紡いだ。


「他にあの場を見た者はほとんどおられないのです」




「エリス様の仰る本当の真実に関しての議論は一旦置かせていただきます。


アレク殿が騎士団の方々や周りの人達にドラゴンを倒したのはエリス様であると伝えて回ったのです。


最初は皆が驚いておりました。それでもエリス様が倒されたということに対して一人も否定する者はいませんでした。


なぜなら、エリス様は騎士団や街の人々から厚い信頼と期待を得ているからです。


もし、アレク殿が倒したと自ら伝えていれば、ただの平民にそんなことができないと否定されていたでしょうな。


そして何より、エリス様がドラゴンに立ち向かって行ったという騎士団からの目撃証言もあったため、もはや誰も否定する余地はなかったのです」




エリスはしばらくの間、沈黙していた。アレクにしてやられたと痛感した。


考えた末に言葉を紡いだ。


「ウィル爺はドラゴンを私が倒したと本気で思っているの?」




ウィル爺はゆっくりと言葉を発した。


「失礼を承知で私の意見を申し上げるなら、完全に信じきれてはおりません。


エリス様をここまで背負ってこられたアレク殿を見たときに、この男から底知れぬ強い何かを感じとりました。もしやと思いましたが、これは一人の老骨剣士の勘であり、誰かに話しても戯言にしかならないのでしょうな」




「私が皆に話すわ。アレクも連れて本当の事を話すことにする」




ウィル爺はコホンと咳払いを入れた。


「アレク殿から伝言がございます」


「アレク殿はどこかへ旅に出ると、そしてエリスに絶対会いたくない、眠っているエリスが可愛かった。ちょこっと何かしても大丈夫だと考えても、本当に何もしてないから安心してくれよな。


最後に、お元気でさよならと伝えられました」




これを聞いたエリスの様子を鑑みたウィル爺は急いで付け加えた。


「私から助言致しますと、一人でも真実を話すのは、いたずらに市民の混乱を招くだけですのでお止めになられた方がよろしいでしょうな。もはやその功績を受け取ってしまってはよろしいのではないかと。


それでは私はこれにて失礼します」


ウィル爺は急いで部屋から出ていった。




一人部屋に取り残されたエリスは下を向いたまま固まって動かない。


その顔を下からのぞき込むと、怒りと恥ずかしさが入り混じっていて誰かに見られたくないという表情だった。


エリスはショックで絶望したという気持ちは微塵も感じられなかった。


むしろその逆で、心に熱い炎が灯っていた。




それから数日後、ターニヤ国王から危機を救ったとして、勲章をエリスに授与された。


国王陛下から褒美として何かないかと聞かれたエリスは迷わずこう答えた。




「この世界に異世界から来た最強の力を隠して私よりも強いのに弱いふりをしている不届き者がございます。その者を見つけ出して懲らしめるためにどうか私に時間をください」




「ハッ、ハッハッハー」


国王は笑っていた。


「此度の件に貴殿は多大な功績を残している。ならば国王として報いねばなるまいな。


よかろう。ならば貴殿に好きなだけ休暇という報奨を与えよう。その者を見つけ出して来るが良い」




「はは、謹んでお受けさせていただきます」




エリスは騎士団を退団したと捉えられても不思議ではない報奨を国王陛下から授かったのだ。




数日後、エリスが旅に出る。


ウィル爺は孫が嫁に出るというような気持ちで送り出していた。




「二度と会いたくない。上等じゃないの。その願い打ち砕いてやるわ。


会いたくないなら、こっちから追いかけて会いに行ってあげるわよ。


私を本気にさせたこと後悔させてあげるから」




その頃、アレクは旅の途中で「ヘーーーーーーーックシュン」というとてつもない大きなクシャミをしていた。


悪寒がするのは誰かが噂をしているのだろうか




アレクはエリスが追いかけて来ていることなど知る由もなかったのだ。


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